パパのお仕事-2
正直、私もずいぶん駄作を撮った。
だが私は今日…
この手で伝説を撮るのだ。
はっきり言って、この錦玲子でさえも緊張して2、3日ろくに眠っていないのだ。
[ おはようございます。
監督、みなさん今日はよろしくお願いします。 ]
主役もずいぶん早くからの登場だった。
[ あっ、先生。
おはようございます。 ]
私が銀次郎に挨拶をすると、スタッフ全員が手を止めて頭を下げる。
私は普段、彼の事を[ 銀ちゃん ]と呼ぶが現場では敬意を込めて[ 先生 ]と呼んでいる。
銀次郎自身はよしてくれというのだが、私はそれほど[ 伊吹銀次郎 ]を敬愛しているのだ。
スタッフの緊張感も違う。
[ ところで先生。
今日は新人の女優をぶつけるわけですが本当にそれでかまいませんか? ]
[ いいねぇ…
去り行く男優と生まれくる女優の交差点か…
玲ちゃんの絵なら最高の作品になるなぁ。 ]
銀次郎はそういって私の肩に手を置いたが、その緊張と気迫が私には伝わった。
[ まずかったら構わす言ってください。
すぐに差し替えますから… ]
[ この伊吹銀次郎、未だ一人とて落とした事はありませんよ。
大丈夫、哭かせてみせます。 ]
そりゃそうに違いないが…
私は銀次郎に深々と頭を下げる。
予定より早いが文字通り役者も揃ったので、私たちはさっそく撮影を開始した。
[ 新人の南みずきです。
新人ですが私が自らチョイスした女優です。 ]
バスローブ一枚になったみずきは緊張して一礼し、うつむき加減に入ってきた。
まぁ、どこにでもいる女優志願だが私はこの子に何かキラリとする物を見いだしていた。
ただ…
その時にはそれが何なのか、まだ分からなかったが…
私の作品はだいたいにおいて濡れ場から撮るのだ。
なぜならば、後撮りの方がプロフィールやプロローグカットに女優の艶が違うからだ。