コンビニ草紙 第八話-1
第八話;現想―其の三―
突然の事に頭がまわらない。
酔っていて回らないのかもしれないけど。
彼に引っ張られるままに後ろをついていく。
いつも会うコンビニの角を右に曲がる。
少し歩くとそこには小さな公園があった。
「とりあえず、水で洗いましょう。」
水道の蛇口をひねると、私の左膝の汚れを洗う。
洗い終わると左袖から手ぬぐいを出した。
「これ、使ってください。」
目の前にずいと差し出され、勢いで受け取ってしまう。
「えっでも汚れてしまうので…」
私は使うのを躊躇っていたが、彼があの大きな目で
『使ってくれ』とばかりにじーっと見てくるので使わせてもらうことにした。
公園のベンチに座り、膝を拭く。
傷は大したことは無かったが、手ぬぐいに少し血がついてしまった。
「…すみません、洗って返しますから。」
「いいすよ、そんなの。あ、良かったらこれもどうぞ。」
今度は左袖から絆創膏を出した。
まるで四次元ポケットならぬ四次元の袖といった感じだな、なんて思う。
「…ありがとうございます。」
何だか至れり尽くせりな感じがする。
オトナになってすり傷を作るなんて。
何だか私のほうが年上なのに、子供になった気分だ。
「…ちょっとは酔い、覚めました?」
「…はい、何だか恥ずかしいところをみられてしまって。」
「全然。おもしろかったす。」
おもしろい?そっちの方が恥ずかしいわよ。
「いつもおねえさんはおもしろいす。色々で。」
「え?何がですか?」
「コンビニで会った時と、うちの店で会った時で全く違う感じでした。
今日もちょっと違う感じがするし。」
…いろいろか。
確かに色々自分をつくっているのかもしれない。
現代人は状況によっていろんな性格を使い分けていると思う。
だけど、彼は全く使い分けていない。
誰に対しても同じ、というか。
「…そうですか。フジモトさんはいつも誰にでも訳隔てないですよね。羨ましいです。」
「え、そうすかねぇ。そんな事もないと思うんすけど。」
そう言うと頭をかいた。
頭をかくのが癖なのかもしれない。
猫ッ毛の髪が揺れる。