『It's A Wonderful World 3 』-6
「どうした急に叫んで?」
はわわわわ。
僕はぐにゃりとベッドに崩れ落ちた。
なんということだ。
このままでは最悪の展開になってしまう。
考えすぎだろうか。
いや、僕の経験上、最悪な展開だと予想したことは必ず現実になる。
なぜなら僕はかわいそうな男の子だから。
「シュン、大丈夫か? 顔色が悪いぜ?」
心配そうに僕の顔を覗き込むマサキ。
なんという凶悪な髪型か。
僕はこんな男と結ばれてしまうのか。
いや。
未来は決まっていない。
僕はどっかの漫画で読んだセリフを思い返していた。
そうだ。
今ならまだ間に合う。
今なら、まだ最悪の結末を回避できるんだ!!!!
「マサキ…」
「おう?」
僕は身体にぐっと力を込めて立ち上がった。
「僕、やる…」
「犯る? 俺を?」
ノイズだ。戯言だ。
なぜか頬を赤らめるマサキなんか、今の僕には見えない。
「仁美さんに釣り合う男になってやるって言ってんだ!!!!」
叫んだ。
もう誰に聞かれたっていい。
今、僕の決意を叫んだ。
「おお…」
マサキが呆けるような顔で僕を見上げる。
「熱くなったな、シュン!」
「なったとも!」
ならざるを得なかったとも!
「お前のお陰だ、マサキ。僕は目が覚めたよ!」
「そ、そうか」
マサキは照れくさそうだ。
「僕、がんばる! がんばって仁美さんに釣り合う男になってやる!!!」
マサキENDを回避するために!
「よく言った!」
僕たちは盛り上った。
やってやる、やってやるぜ!
僕は決意したんだ。
明日から怒涛の毎日が始まる…。
「……」
そこでふと疑問。
「まず何をすればいいんだろ?」
「え?」
聞かれたマサキはキョトンとした顔になった。
「…筋トレとか?」
「なんでだ」
マサキに突っ込みながらも、僕は自分の気持ちがすごくクリアになっているのを感じた。
なんだかもやもやしてた気分が晴れたようだ。
今までもてあましていた仁美さんへの感情。
どうすればいいかわからなかった。
でも、簡単なことだったんだ。
まず仁美さんと並ぶ。
天は人の上に人を作らず。
どっかの偉い人がそんなことを言っていたけど、それはウソだ。
僕たちが生きている世界は酷く不平等で出来ている。
だから、僕はまず仁美さんと並び立つんだ。
今から、それを人生目標にしよう。
決して熱くなっているわけじゃない。
僕はいつもどおり、クールでスマートだ。
クールでスマートなままで仁美さんに食らい付いてやるんだ!
いや、ホントに熱くなってないよ?
ふと開けた窓から心地の良い夜風が吹き込んできた。
ああ、いい気分だ。
―ちょっと、アキヒロくん!? まだ寝てんのかい? あんまりオバチャンをバカにすると、熱湯かけてやるからね!?
階下から聞こえるマイマザーの声。
冷たい夜風を肌で感じながら、僕は思うのだ。
台無しだよ、お前ら…、と。
「わかった、シュン。とりあえず髪型をかっこよく逆立てようぜ! スパンキーな感じに」
「帰れ」
ごめんなさい、続きます!