ネコ系女 #4-9
「疲れた?ありがとね、付き合ってもらっちゃって」
「うん」
「楽しかった?」
「普通」
嘘。本当は楽しかった。ネコカフェも歩きながら食べるハンバーガーもペットのグッズショップも、全部初めてですごく楽しかった。
「ハハハ、普通か。じゃ次はもっと楽しいことしなきゃ」
「次なんてないし」
そんなこと言われたら、次に期待する。
「俺あるつもりだったんだけど」
タマの笑う声が聞こえた。
「ふん」
こんなにゆったりした時間が流れたのは、久しぶりだった。タマに彼女がいることさえ忘れてしまいそうだ。
目の前には青。清々しい程の青。海と空の青をずっと見ていたら、ふっと境界線が歪んだ。
「聞いてよ、タマ」
口から言葉が出てくる。
ぼんやりした頭で、私は何言い出すんだろうなんて考えた。
「ん、何?」
「…昨日、レジの計算したら売上と一万円合わなかったの」
「へぇ」
「姫代と床とか隙間とかずっと探してたんだけど見つからなくて」
「うん」
「三時間ぐらい探しても見っかんないの」
「うん」
「でもあったの。姫代があった…って」
「どこにあったの?」
「姫代のエプロンのポケット。レジに入れようとして落としたお金がさ、ポケットの中に入ることってよくあるのに二人とも気付かなくて」
「ふふ、そうなんだ」
「見付かったら急に疲れちゃった…。家に帰ったのも一時近かったし」
「それなのに今日俺に付き合ってくれたんだ。ありがとう」
「別に、そういうんじゃないけど…」
足元で何かが動いた。
閉じかけの目でちらりと見るとノエルが私の足に顔を擦り寄せていた。