ネコ系女 #4-8
「あれ?ノエルのリード新品じゃん」
そう聞いたら、タマは私から目線を外して優しい目をしてこう言った。
「ももちゃんも、自分用の新しいリード欲しいみたいだったんだよね」
「…そ」
じゃあ私に選ばせんなよ、聞かなきゃよかった。と思った自分が疑問だった。
いいじゃん、別に。
「さって次は…」
「私、ちょっと座りたい。疲れた」
「…ん、了解。この先にさ海見えるとこあるんだよ。そこまで頑張れる?」
「うん」
自分の声の低さに驚いた。楽しい気分はすっかり冷めて、小さなわだかまりが心に残る。
空気の読めないタマでも、さすがにそれには気付いたようで、その海が見えるってとこまでお互い無言だった。
【ネコ系女は気分屋】
「ここ」
「…うわ」
坂道を登りきると目の前いっぱいに海が現れた。
暗い気分が一瞬でぶっ飛ぶくらい雄大な景色。
「綺麗でしょ?」
タマが私を除き込んだ。
「べ、別に。もっと綺麗なとこ連れてってもらったことあるし」
全部見透かされたみたいで悔しかったので、私はふいと横を向いた。
「そうなんだぁ。ケーキ屋さん、こんな地味なの見飽きちゃってたか」
違う、とは言えなかった。
プライドがこれほど邪魔だと思ったことはない。
素直に綺麗だと言いたかった。
「ま、たまにはいんじゃない?」
私は海に面してあるベンチに座った。
タマも当たり前のように私の隣に座る。
いつからこんなになったんだろ。この数時間でどんだけ私達は近付いただろ?
「ほれ、ノエル。走って来なよ」
タマは首輪からリードを外した。それを、私は横目で見る。
「逃げるよ?」
「逃げない」
「戻ってこないよ?」
「ノエルは戻ってくるよ」
でもノエルは振り向きもせず、たたたっと駈けていってしまった。
二人きり。
しーんと周囲は静まりかえる。平日だからか人はいない。