黄昏の約束-1
「……」
今日も眠気が届くほうが早かった。
ほんの少しでいい、話がしたい。
「ああもう、何してんだあたし」
電気を消して真っ暗になった部屋。
布団にはいっても諦め悪く携帯の画面を見つめてるなんて、乙女な行動は性に合わない。
枕元に携帯を放り出して、特大の溜息を吐く。
先月末、正式ではないが異動の打診があってから、満足に眠れていない。
現状よりも好条件の提示だったから、受けるべきだとは思う。
せっかく叩き込んだ知識も、繋がりだした人間関係も、なにもかもリセットされてしまうのが心細いというくらいしか、断る理由が思いつかない。
仕事は仕事で割り切るしかない、子供じゃないからそのぐらいの分別はつけられる。
ただ、今までよりも終業時間が遅くなるのが少しだけ不安で、返事をする前に彼に相談しようと思った。
相談さえしてしまえば、ほんの少しの生活時間の差ぐらい、彼なら頑張れって背中を押してくれるだろう。
返答期限も迫っていつ話そうかと焦りだしたある日、彼――柳木 信之介からメールが届いた。
『言うのが遅くなってごめん。今月で仕事やめて、東京にいくことになった。』
慌てて返したメールに返事もないし、電話をかけてもメッセージを吹き込んでくださいの音声だけ。
片付きかけていた気持ちの整理が、あっという間にぐちゃぐちゃになった。
夕飯時に届くメールもこれで四日目。
『ごめん、今日も行けそうにない』
こんな風に突き放されちゃ、しつこくメールすら出来やしない。
感情のままにワガママを綴っても、同じ反応で返されるのが怖い。
聞きたいことはたくさんあるのに、メールで聞ける内容なんて高が知れてる。
――きっと、しんちゃんにとって必要なことなんだろう。
音楽活動で連絡が疎かになることは多いけど、それを責めようと思ったことは一度もない。
それだけ夢中になって頑張ってるんだと素直に思えた。
しんちゃんが楽しいと思うことなら、あたしもそれを守りたい。
それが彼の一部だから、全部ひっくるめて受け止めていたつもりだった。
相談する素振りも見せてくれなかった。
付き合ってからの五ヶ月、その程度の信頼関係だったのかと悲しさよりも寂しさが勝る。
――独りで決めて、そうして貴方もあたしを置いていっちゃうの…?
『ちゃんと話すから、ここで待っててね』
うん、待ってるよ。
『ここにいてね、必ず戻るから』
うん、いい子で待ってるよ。
だから、お願い。
約束して、置いていかないって。
どれだけ遅くなってもいい、戻ってきて。
独りぼっちにしないで。
ここに繋ぎっぱなしにしないで。
他の人と繋ぐ手なら、あたしに向けて振らないで。他の人に微笑むなら、あたしに笑いかけないで。
もう帰ってこないなら、そう言って。
そうしたら、思い切り泣いて、そして諦めがつくから…。
『また来年、約束だよゆき』
慰めの約束なら、しないままいなくなって――
(アノ人みたいに、あたしを捨てていかないで…)
「…!」
夢にうなされていたのだと、目が覚めてようやく気付く。