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──うああ…きれい。
コンクリートの台座に、磨かれた石が隙間なく埋め込まれた門柱。
かなりの年数が経つのか、美和野分校と刻まれた真鍮製の板は、苔むしたように変色していた。
門柱のむこうには階段と同じ幅でコンクリートの道が奥まで続き、道の左右を桜やソテツ、カシの木が大きく枝葉を伸ばしている。 特に桜はもうすぐ見ごろのようで、淡い色で小さな花がずいぶん咲いていた。
「きれい…長野の学校より、とっても素敵」
雛子は心弾ませ門を潜り、コンクリートの道を進んで行く。木々に囲まれた先に、小さく黒っぽい建物が見えた。
「これが校舎…?」
木板の外壁は全体に表面が焼かれて焦げた色をし、窓枠にはニス塗りが施されている。
「なんだか、戦前の学校みたい」
恐る々校舎に近づいた雛子は、入口らしき扉を見つけると中に入った。
そこはちょうど下駄箱で、左手は講堂が、右手は廊下が見える。
雛子は靴を上履きと履き替え、革靴を下駄箱の1番上に置くと廊下の奥に有る職員室を訪れた。扉を開いたが誰も居ない。
──ちょっと早過ぎたかな…。
雛子は誰も居ない机のイスに腰掛けた。拍子抜けの雰囲気に、集中していた気持ちが思わず緩む。
すると、
突然、音を立てて職員室の扉が開いた。雛子は反射的に勢いよく席を立つ。
「あッ、お、おはようございます!本日付けで美和野分校にお世話になる河野雛子ですッ!」
緊張から早口になる雛子。相手はその勢いに一瞬、ポカンとしたが、すぐに笑顔になった。
「ああッ!こちらこそ初めましてッ。私、校長の高坂ですッ」
「こ、校長先生ですかッ?」
目の前に現れた男性が校長と聞いて雛子は驚いた。その姿は野良着だったからだ。
だが、高坂は気にした様子も無い。いつもの事なのだろう。
彼は壁に掛かる時計で時刻を確認すると、雛子に笑みを向けた。
「ところで河野さん。今から私に付き合ってもらえますか?」
突然の申し出。雛子は恐る々、高坂に理由を尋ねた。
「なに、大した理由じゃありません。校門の前で、子供達を出迎えるんですよ」
「行きますッ!いえ、行かせて下さい!」
雛子は、すぐに高坂の考え方に共感した。そんな彼女に高坂は微笑むと、
「じゃあ、ここで待ってて下さい。ちょっと着替えてきますから」
そう云って職員室を出て、となりに設けられた校長室に入っていった。
再び現れた高坂は、カッターシャツにループタイ、ネズミ色のズボンにサスペンダーといういでたちだった。
短く刈上げた髪型に黒ぶちメガネ。恰幅のよい体型によく似合っており、雛子は可愛らしささえ感じた。
「では、参りましょうか」
「は、ハイッ!」
雛子は高坂の後ろを付いて元来た道を後帰る。