音姫物語-7
荒くなった息で羞恥と恥じた涙が溢れた。
こんな……、恥ずかしかった。
傷にまみれ泥に汚れた足にただただ痛かった。
……忘れたい、忘れよう。
乱雑に拭った足に軽い手当てをして倒れるように眠りについた。
「…さま、螢さま!」
「ん、…ぁ……なあに、若菜…」
「螢さまにお目通り願いたいという方が、あの、殿方さまですよ!」
……歌を交わせど御簾越しに会うものではないのだろうか…。
どうなのだろう、と思いながらも支度を手早く整え外に出た。
「螢姫」
初めて会った殿方は、若菜の言うように優美な風貌をしていた。
涼しげな目もとに、すぅっと伸びた鼻筋、一見冷たい印象を与えるが、僅かに弧を描かれた口元が全てを優しく見せている。
思わず、……見とれるように、ぽうっと惚けてしまった。
「螢姫」
「は、はい…っ」
「忘れ物だ」
優しげに描かれた弧を、意地悪げに変えただけで幼くなった顔で笑う殿方の差し出される手には、…………私の履き物がある。
………どうして…、昨夜の履き物が……。
まさか……!
顔をまじまじと見つめれば、殿方は声をあげ笑われた。
「文を交わし慕うのは俺以外におらぬだろうな、我が鈴鳴りの音姫よ。宣言通り、嫁にもらうぞ……螢姫」
楽しげに笑う初雪の君に、私はただ訳もわからないまま引き寄せられ、腕に閉じ込められる。