音姫物語-4
「螢さま!螢さま!」
「どうしたの、若菜?あわてて…ほら、落ち着いて」
「だって!だって!せっかく殿方がいらっしゃったのに姫さまが御簾の中におられぬから!もうっ!」
「………ごめんなさいね、若菜。歌は渡してくれた?背の君は何と?」
残念な気持ちいっぱいで若菜を伺うと、若菜も苛立った気分が落ち着いたらしく、しゅんと萎れたようになった。
「姫さま、歌をもらったの?」
妹のような幼子から問われ、戸惑いながら答えると大騒ぎになってしまった。
「わあ!都のお姫さまみたい!」
「姫さまいなくなっちゃうの?」
「すごーい!」
「こらこら!姫さま、私たちは畑仕事に戻りますね。ほら、行くよ」
とりなすように幼子の親たちが引き連れ帰ったあと、屋敷に戻りながらの道すがらは、若菜は興奮したように喋り通しだった。
「螢さま!とっても優美な方でした!若菜はいいと思います!あの方になら、……螢さまをお嫁に差し上げないこともないですよ!ふふっ!」
ずっとそのようなことを話す若菜に焦れてしまっても、文を渡したか確かめる暇もなく若菜は喋ってしまう。
「……若菜、歌は?」
「へ?……あ!あぁ…歌!ちゃーんと渡しましたよ!はい!」
ハッとしたように話す若菜はさぞかし殿方の再訪に心が夢中だったのだろう。
そんな愛らしい様子が若菜らしい、と微笑ましくなった。
「そう、ありがとう。若菜。………あの、どう、だった?私の、歌…」
「気になります?螢さま」
にやりと意地悪げに弧を描いた若菜の唇が楽しげに問う。
「……若菜の意地悪」
思わず泣きそうになりながら言うと若菜はあわててとりなしてきた。
「あーん!ごめんなさい、螢さま!大丈夫です!……ちゃんと受け取っていただけて、その場でお読みくださいましたよ。返歌も預かっております」
……よかった。
私の歌…、受け取っていただけたんだ。
また、殿方さまの歌もいただけて、……よかった。
またも上質な紙に焚かれた香の匂いに安堵すれば、涙目になってきてしまった。