音姫物語-3
初雪に
踏みし名残の
背の君よ
我の音色で
ひきとめとうて
歌など、贈られたのも贈るのも、初雪を踏むように私にはあなたが初めてです。
残る足跡のように今でもあなたの名残が恋しい。
どうか私の奏でる音色でひきとめておきたいほどに。
「どうかしら、…若菜、変じゃない?」
雪などと今の季節には可笑しかろうが、この里の山からは頂に高い雪が見えたのだ。
「姫さまの気持ちを込めればよいのです。しっかりお気をお持ちください」
「……ありがとう」
筆を置き、若菜に微笑むと若菜は大輪の花のような笑みを返してくれ、それだけで心強かった。
そうしてまた変わらぬ、けれど心はそわそわと浮き足だった気持ちで日々を過ごした。
「姫さま!笛を吹いて!」
野に出れば、慕ってくれる幼子が笛をねだってくれる。
「こら!姫さまになんてこと…すみません姫さま。家の童が…」
親であろう農家の者は恐縮したように言うけれど、もうこの里で育った私は皆の一員で、なのに身分から一応の建前とはいえ、萎縮されこちらを伺われるのは……少しばかりさみしい。
「いいの」
そう笑ってしゃがみこみ目線を合わせて問う。
「何がよいかしら……ねぇ、今はどんな気分?」
「姫さまに会えてとっても嬉しい!」
「僕も!」
「あーっ!わたしも!」
「ふふっ…ありがとう」
そう笑ってぎゅうと抱き締めると幼子たちはきゃっきゃと嬉しげに私に手を回した。
若菜がいようものなら、着物が汚れます!と注意されてしまいそうだが、私が泥のついた手でも愛しく思ってしまうのは、この子達を弟妹のように思っているからだろうか。
「じゃあ、楽しい曲を吹きましょうか、ね?」
そう笑って立ち上がると皆はしゃぎながら集まってきた。
しばらく笛を吹けばいつのまに集まったのか、里の皆が手を休め聞きいってくれていた。
「姫さま、ありがとう。とっても素敵」
「姫さまの音色はいいねぇ」
「本当、心が洗われる」
「……ありがとう」
誉めちぎる皆に照れながら礼を言っていると、若菜が駆け込んできた。