阿婆擦れ-1
「なめんじゃねーぞ クソガキイイ!」
廊下に優香の声が響き渡る。
「優香じゃろ。今度は何に切れとるんじゃ。」
雄大は声を聞きつけると声の出所へと向かった。
優香を認めると、雄大は有無を言わさず優香を羽交締めに押さえこんだ。
「何さらしとんじゃ わりゃー!」
優香が怒鳴りちらすが、離すわけにはいかない。
雄大は優香を押さえ込んだまま、回りを見回した。
既に二人の男子生徒が床に転がり、うめき声を上げている。
その向こうで、何人かの男子生徒がギラついた目でこちらを睨んでいる。
あちゃー!また、やってしもうた。
雄大は、優香を羽交締めにしたまま、ギラついた男子生徒達を見据えると一括した。
「おい、お前ら。そこの連れを助けて早う逃げい。
早うせんと、この娘に殺されるぞ。
俺も何時まで抑えられるか分からん。
早うせい!」
その間も、優香は怒鳴り散らし暴れ続けた。
優香が、かかとで雄大の足を蹴り上げる。
「痛い、痛い、痛いが、優香。」
生徒達が立ち去りやっと優香が大人しくなった。
雄大が力を緩めると、優香は雄大の腕を振り払い逃げていった。
「優香!わしの話も聞かんか!」
雄大にとって、優香は一つ年下の幼馴染であった。優香が同じ高校に入ってきたときは本当に驚いた。入学式当日に学園内で大喧嘩が始まった。その中心で暴れているのが小柄な少女だと聞き、見物に行ったところで優香を見つけた。優香の喧嘩の仲裁はその時から雄大の日課となった。
優香は怒り出すと手がつけられないが、喧嘩の理由はほとんど相手に非があった。特に優香の連れを馬鹿にでもしようものなら、相手が上級生でも迷うことなく戦陣を切る。そんな優香を慕う者も多く、最近では何人かの取り巻きが出来ていた。
雄大はそんな優香が心配だった。優香の腕っ節がいくら強くても所詮は女の力だった。
取り巻きも優香を守れるような輩は見当たらなかった。この学校の悪ガキどもが本気になればひとたまりもない状態だった。
県下一の不良校と名高い高校だった。他の高校に受け入れられない生徒が集まるこの高校が荒れるは自然な流れだった。そんな高校を変えようと学校は数年前から野球部に力を入れていた。雄大は、その野球部のエースだった。
雄大は中学時代から投手として活躍し、身長185センチ、体重80キロの体躯から放たれる速球は、強豪校の打線でも打ちあぐねるほどだった。
雄大は、先ほどの男子生徒たちの教室に向かっていた。
教室に入ると、生徒たちが身構えるのが分かった。
教室には小競り合いをした生徒と、その連中に大将と呼ばれる将人が来ていた。
将人は、その豪快な喧嘩振りと面倒見の良い性格で悪ガキどもから慕われ、大将と呼ばれるだけの器量も持ち合わせていた。将人は仲間が怪我をしていることで、明らかに頭に血を登らせ、雄大を睨みつけた。