……タイッ!? 第二話「励ましてあげタイッ!?」-22
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一、二、三……、まだあんなにいるよ。こいつら全部抜かさないと入賞できないけど、やっぱ無理かな? レベルが足りないっていうの? 予選と大違いだわ。
まあ今回は試合になれるってことでね。
……!?
コーナーを曲がったとき、一瞬だけど紀夫が見えた。
なんであそこにいるの? 桜蘭の応援席は逆じゃん。つか思いっきり他校だし、ジャージの色! 浮いてるっての。
まったく何してるんだかね……。
走っている最中に余計なことを考えるのはしたくない。もちろんペース配分とか戦略はあるけど、でも、なんで島本のことなんか?
「里美! がんばれ!」
ほら、今聞こえた!
なんでだろ、雑踏の中の一声じゃん。空耳でしょ? でも、きっとあいつの声だと思う。そう信じたいな。
……ふふ、よし、特別にみせてあげようじゃない? あたしの本気。つか、惚れるなよ!
第三コーナーを曲がるとき、あたしはいわゆる本気ってヤツになった!
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霧雨の舞うグラウンドには閑散とした空気が醸されていた。
今はまだ本降りになる気配がないが、日が沈む頃には傘マークが覆っていた天気予報を予定に入れてのプログラムなのでテントなどもそうそうに撤去されていった。
里美は一人グラウンドを隅から見つめていた。
表彰式は後日改めて市の体育館にて行われる。
大会日程の冊子に小さく書かれていた規定とはいえ、どこか納得がいかなかった。
女子八百メートルで八位入賞を果たした里美は学校宛に賞状が送付されるだけで、どこか実感が薄かった。
せめて歓声に包まれるのならまだしも、霧雨のせいで皆それどころではない。皆荷物を纏めると帰りのバス亭へと行ってしまった。
――つまんないの……。
並み居る強豪を抑えて……というほどでもないが、自分なりに結果を出したのだ。
せめて部員一同から祝福の言葉が聞きたかった。
そう考えるのは彼女が総体二日目の主人公であるからで、脇役を押し付けられた側にしてみれば雨に濡れてまで演じるメリットも無い。
ただ……、
「風邪引くよ……」
すっと差し出される陰は折りたたみらしく、二人が入るには小さかった。
「平気だよ。コレぐらい」
風に舞う雨粒は傘のある無しに関わらずジャージに染み込んでいく。競技後の火照った体も既に冷えており、張り詰めた筋肉が痛かった。
「駄目だよ。運動後に体を冷やすと怪我しやすいから」
「なによ。本で読んだことじゃない」
「うん。だけど、マネージャーだし……」
振り返っても彼と目線が合わない。同じぐらいの背丈だと思っていたけれど、五センチ程度背が高いらしい。里美は顎を引いて上目遣いになり紀夫を見る。
「何しに来たのよ。荷物はいいの?」
「紅葉先輩がやってくれるから、君は里美ちゃんを探してきなさいだってさ」
「へー、あの先輩が……」
紅葉が気を遣ってくれたことに驚きながらも、彼の自発的な行動でないことに嘆息する。
「里美さん、カッコよかったよ」
「え? あ、うん……当たり前じゃん」
「昔のことは結果しか知らないけど、生で見た里美さんの走り、躍動感があるっていうの? 迫力があったなあ」
まるでテレビ中継の冴えないコメンテーターと思いつつ、賞賛の声が嬉しい。
「来年は全国かな? 里美さんの目標はオリンピック?」
上機嫌な同級生と違って空はぐずつきを増す。
「はっはは、そんなの無理だよ。でも、全国は行ってみたいな」
雨粒の距離に半比例して傘の中が窮屈になる。
「里美さんならいけるさ。俺も応援するからがんばってよ」
もしかしたら空がプロデュースしているのかもしれない。
「そうね、これからもびしびしこき使うからそのつもりでいてよ、紀夫殿?」
「こちらこそ、里美様」
自然に呼び合える仲になれたのを、二人は意識的に忘れることにした……。
続く