エンジェル・ダストG-1
──宮内は預かった。コイツを助けたければ、〇〇の第3ふ頭まで来い。
恭一のルノー4は先を急ぐ。
「さて、どれだけの歓迎があるかな…」
ハンドルから離した右手がジャケットの内側に滑り込む。ジグザウエルP230jpの冷たい感触が掌に伝わる。
「…まさに、──神のみぞ知る─だな」
殺されに行くような状況。
なのに、その顔に悲壮感は無い。
むしろ、これから始まるアクションを愉しみにしているようだ。
それは、先日まで相対することに畏怖していたとは思えないほどに。
恭一はアクセルを深く踏み込むと、夜の繁華街を走り抜けていった。
15分後。指定の第3ふ頭に到着した。10メートルほどの高さに積み重ねられたコンテナがズラリと並び、外灯からの光を遮る。
かなりの面積が闇に包まれるため、普通では視野が利かない。
だが、恭一には見えていた。彼は公安時代、──ある国の特殊部隊─で受けた訓練により夜目を獲得していた。
その目で辺りを見回すが、相手はまだ来ていないようだった。
恭一は、仕方なくポケットからキャメルを取り出し火を点けた。
紫煙を燻らせながら、──最後になるやもしれんタバコ─を堪能する。
フィルター越しに吸い込む煙。肺を通してニコチンが身体に染み渡り、全身を弛緩していく。
半分ほど吸ったところで、前方のコンテナが明かりに照らされ、同時にクルマが近づく音がした。
──やっとお出ましか。
タバコを捨てて靴で踏み消すと、胸元のジグザウエルを腰に挟み込んだ。
目の前に黒塗りのセダンが2台止まった。素早くドアが開き、中から4人の屈強そうな黒ずくめの男達と、捕われた宮内が降りてきた。
「松嶋ァ、貴様ひとりかッ!?」
男達のひとりがドスの効いた声で恭一に訊くと、
「おまえ、周りの状況観りゃオレだけだって解るだろう?
それとも、よほどオレが怖いのか?」
挑発的な恭一の態度。だが、聞いた男達はなんの受け答えもせずに宮内を解放した。
「松嶋さんッ」
「宮内さん、怪我はありませんか?」
宮内は恭一の傍に走り寄ると大きく首を振った。
「そいつは良かった」
そう云うと、ふ頭の岸壁をバックに男達と相対する。
じりじりと後退する恭一と宮内。男達が散開し、徐々に距離を詰める。
双方の距離が10メートル足らずとなった時、恭一は宮内に耳打ちした。
──おまえ、泳げるよな?
「松嶋ァ、ここがおまえの墓場だ」
男のひとりが拳銃を抜いた。すると、残る5人も真似るように拳銃を構える。
絶体絶命の状況──。