エンジェル・ダストG-9
「そう、パーソナリティだ。営業マンに云わせれば、客は商品と一緒に売っているヤツの人間性を買ってるそうだ」
「それで?」
「だから、オレ達のパーソナリティをヤツに売り込むのさ」
佐藤の持論に田中は呆れ顔で首を振る。
「…で?次はいつ行くんだ」
「3日後にしよう。李の精神状態が落ち着くのを待って」
2人はクルマに乗り込むと中華街を後にした。
「大班。先ほど、防衛省の佐藤氏と田中氏が、面会依頼に来られました」
「佐藤に田中…?」
──いよいよ来たか…。
「それで?」
「一応断っておきました。お身体も優れませんし、今はまだ、時期ではないと考えまして」
理路整然とした蘭の答えに、李は柔らかな表情で頷いた。
「君が居てくれて助かるよ。蘭」
「しかし、後日、また来ると云っておりました」
「そうか…次に訪れたら、中に入れてやりなさい」
「分かりました。他にはなにか?」
「いや無い。ありがとう」
蘭は部屋から出て行った。
その姿を、李は厳しい目で見つめていた。
──奴らは必ずあなたを懐柔し、私と五島を丸裸にしようと考えています。
先日、李は恭一と酒を酌み交わした時に云っていた言葉を思い出していた。
──ワシも甘く見られたモノだな。
李の顔に獰猛さが宿る。それは長い間、──裏社会の頭─として君臨してきたかつての顔だ。
李の元に連絡が入ったのは、3日前の夜半過ぎだった。
相手は五島からで、盗聴防御のためか、かなり聞きずらい状態だ。
「用件だけお伝えします」
五島はそう前置きすると、恭一が生きている事、自分の酒びたりは演技であることを話し、李にも演技をしてくれと頼んできた。
「目的は2点、防衛省の使い走り達から情報を引き出す事。それと、蘭のガードを下げさせるためです」
李は五島の要請を受け入れ、今、こうしてベッドに横たわっている。
──あとは主役が現れる前に…。
李の瞳は爛々と輝きだした。