エンジェル・ダストG-5
「…そうだ…やつらも同じだ」
「そうか。おまえ達はすべてにおいて利用されているんだな」
恭一は意味深な言葉を放ち、谷崎を見据える。
「これが最後だ。おまえ達のハンドラーである佐藤と田中は、防衛省の何処に所属してるんだ?」
「それは……」
血だらけになりながら、谷崎は拒否の首を振る。
「たいした根性だ。じゃあ仕方ない」
恭一は冷たい笑いを浮かべると、銃口を谷崎の額に付けた。
「あばよ…」
トリガーを引いた。銃口が火を吹き、谷崎は身体ごと後方の愛車に叩きつけられた。
次の瞬間、肉塊と化した谷崎は床に倒れた。鮮血と脳ミソがランドクルーザーの白いボディを染めた。
その夜。谷崎を除いた男達は、ホテルのレストランで食事を終えると街へと繰り出した。
仕事から解放され、男達は、特殊部隊員とは思えぬほど心のガードを下げていた。
そして翌朝。男達はひとりとして、ホテルに戻っては来なかった。
翌朝。
「おはようございます。大班」
「おはよう蘭。今日も良い天気だな」
李海環は、疲れた笑みを浮かべてダイニングに現れた。
その表情はいつもと明らかに違い顔色も悪い。
「朝食の準備は出来ております」
蘭の言葉に促され、李はテーブルに着いた。
海老と干し貝柱の入った特製粥に青野菜と金華ハムの炒め物。それにフルーツ、黒蜜が掛かった杏仁豆腐。
李はカユをひと口食べるとため息を吐いた。
いつもは貪るように食欲旺盛な彼だが、ここ3日間は半分ほどしか食べていない。
食事中、普段は蘭が報告する武器売買のオーダーや、マネーローンダリングにヘッジファンドの進捗具合、株の売買などに耳を傾け、指示を出すのだが、
「蘭。すまないが、今日は君に任せる」
李はそう云うと──少し疲れた─と、自室に戻ってしまった。
蘭は慌てて料理長に状況を説得すると、料理長はグラスに薄紅色の液体を用意した。
「失礼します」
蘭はグラスを盆に乗せて李の自室を訪れた。
「料理長に云って用意してもらいました。山桃酒で、滋養に良いそうです」
李はベッドから身を起こすとグラスを受け取り、一気に飲み干した。
「すまないね、蘭。君に心配を掛けて」
「いやですわ、大班。いつになく弱気で」
蘭は笑っていたが、李は笑っていなかった。
「この歳になると、──友人─と呼べる人間はどんどん減っていく。友人を失うのは正直堪えるよ」
蘭はこんな悲しげな李を見るのは初めてだった。