エンジェル・ダストG-4
「今から帰れば深夜には着くな」
谷崎は腕時計で時刻を確認すると、ズボンのポケットからクルマのカギを取り出した。
その時、彼の後頭部を硬いモノが押した。
「動くな…」
──そんなバカなッ!。
谷崎の背中に冷たいモノが走る。──囁くような声、だが、それは紛れもなく恭一の声だった。
──クソッ、やはり思った通り生きてやがったんだ。
「おまえに聞きたいことがある。両手をゆっくりと頭に乗せろ」
谷崎は云われた通りに両手を頭に乗せた。心のどこかで油断したのだろう、武器はバックの中だった。
──殺るとすれば、隙を付いて肉弾戦に持ち込むしか無いな。
「そのままゆっくり跪け」
谷崎は跪いた。
「おまえ達の所属は?」
「…オレの仲間がすぐに現れる。逆に今度こそ──次─は無いぞ、松嶋」
挑発的な言葉でプレッシャーを掛けようとする谷崎。──隙を誘うために。
が、次の瞬間、彼の右足首に激痛が走った。同時に太いゴムが千切れたような音が駐車場に響いた。
「グガッ!アアァッ!」
恭一の左手にはナイフが握られていた。彼は谷崎のアキレス腱にナイフを突き立てたのだ。
激痛に顔を歪ませ、のたうち回る谷崎。白っぽい床がみるみる赤く染まっていく。
それを見つめる恭一の目は冷徹そのものだ。
「ぐああ…松嶋ァ…キサマ」
「その程度で大層に喚くなよ。おまえらに殺された大河内や柴田ふみ、それに椛島教授はもっと痛い思いをしてんだ」
恭一は谷崎のバックを開いた。S&W社製MK‐22が出てきた。
「いいモノが出てきたな」
そう云ってMK‐22を手にすると、セーフティを外して銃口を谷崎に向けた。
「もう1度訊くぞ。おまえの所属は?」
「…陸自、西部方面隊普通課連隊…」
──ここでも特殊部隊か。
「他の3人も同じ部隊か?」
「……」
谷崎が黙っていると、MK‐22から発射された弾が左ふくらはぎを貫いた。
「あががッ!」
悲鳴のような谷崎の叫び声。床はさらに赤く染まっていく。
恭一は谷崎の髪を鷲掴みにして自らに引き寄せた。
「他の5人も同じ部隊か?」
今度は右肩にナイフが突き刺さる。──度重なる激痛に、谷崎の意識は遠のいていく。
彼のの中に、もはや戦意は欠片も無かった。