エンジェル・ダストG-3
4日後。
「あれから、松嶋は現れないのか?」
某ホテルの一室。田中は再び男達を訪れた。──あの日以降、恭一の動向を知るために。
だが、
「やつらが海中に飛び込んだ翌日から、県警はふ頭周辺を捜索中ですが死体はまだ…
我々は李海環の邸宅、松嶋と五島に宮内の自宅、松嶋のオフィスなどを張ってましたが今だ現れません」
男達のひとり、谷崎の報告を受けた田中はさらに訊ねる。
「佐倉の元妻、福留幸子の実家は?」
「専従監視員の連絡では訪れていません」
田中は満足そうに頷くと、ジャケットの内ポケットからぶ厚い封筒をテーブルに投げ置いた。
「仕事料だ、ご苦労だったな」
「…しかし、死体も上がってない。もう2?3日は監視をするべきでは?」
谷崎は意を唱えた。だが、田中は耳を貸そうとしない。
「4日も見つかってないんだ。もう死んでる」
説得を諦めた谷崎は封筒を開いた。帯付きの1万円札の束が3つ出てきた。
「あれだけ苦労して300万か…」
「バイトにしちゃ結構な額だ。それに…」
田中はひと呼吸置くと、男達ひとり々を見据えた。
「人間、欲をかくとろくな目に遇わんからな」
そう言葉を残して部屋を出ていった。
「これで終わったな」
谷崎はひとり75万づつ金を分配しながら云った。
その口調は感慨深いモノでなく、むしろ厄介払いが出来て清々したといった感じだ。
「じゃあな」
谷崎はイスから立ち上がり、荷物を肩にドアに向かっていく。
「何だ、もう帰るのか?」
仲間のひとりが谷崎の背中に声を掛けた。が、彼は何も云わずにドア向こうに出ていった。
「なんでえ。仕事が終わったから、下のレストランで祝杯でもと思ったのに…」
声に反応して別の男が口を開く。
「放っとけ。あいつは──元空艇部隊─というプライドがあるんだ。
オレ達みたいな──陸自のならず者─とは仲良く出来ねえのさ」
「じゃあ、オレ達だけで行くか?」
「そうだな。とりあえずシャワーを浴びて、きちんとした身なりで行こうぜッ」
谷崎を除いた3人は一斉に立ち上がった。
「メシらしいメシなんて久しぶりだッ、オレは血がしたたるようなステーキが喰いてえぜ」
ひとりが嬉々とした顔でそう云うと、別の男は、
「それよりも酒だ!作戦のおかげで、この2週間も禁酒だったんだ。今夜はとことん飲むぜッ!」
それぞれが、思い々の欲求を語りながら自らの部屋へと帰って行く。
仕事の緊張感など完全に無くなっていた。
その頃、谷崎はホテルをチェック・アウトし、地下駐車場に現れた。──彼の愛車、ランドクルーザーが停まっていた。