エンジェル・ダストG-12
「お話は蘭から伺ってますよ」
李はそう云うと2人の前にあるアームチェアに腰掛けた。
「今日は私どもにお会いいただき、ありがとうございます」
2人は再び頭を下げる。
「まあ、杓子定規な挨拶は結構ですから、用件を伺いましょうか?」
李はそう云うと2人に座るよう促した。
佐藤と田中は、ソファに腰掛けるとさっそくディールに入った。
「単刀直入にお話します。あなたが匿っている五島を我々に渡していただきたい」
唐突とも取れる依頼。李は苛立ちよりも、その意気に驚きを表す。
「そういう話でしたら、場所を替えましょう」
李はアームチェアから立ち上がると、2人を別室へと導く。
部屋を出て廊下を渡り、招かれた部屋はワインセラーだった。
「この奥ですよ」
李の言葉に促され、佐藤と田中は中に入った。レンガの壁に並ぶワインを尻目に、薄暗い通路を進むと、先の方に鉄製の扉が見えた。
「あそこでは様々な耳がある。ここなら安心です」
そう云って李は鉄扉のノブに手を掛けた。開く時の軋みを残し扉は開いた。
「さあ、入って下さい」
佐藤と田中は部屋に入った。カビ臭が鼻をつく。李は明かりを点けた。裸電球の光が室内を照らした。
その時だ。
「では、ごゆっくり」
李はそう云うと鉄扉を施錠した。中に閉じ込められた2人は慌てて扉に近づいた。
だが、ドアノブには鍵穴さえ無い。外からしか開かないのだ。
「李さんッ!何の冗談ですか、開けて下さいッ」
2人は扉向こうに居るはずの李に、声を挙げて訴える。
しかし、李はそそくさと部屋を出ると入口の扉も閉めてしまった。
──後は頼みますよ…。
廊下に戻った李は、何事も無かったように仕事場へと向かった。
「…だ、ダメだ。誰も来ない」
「だとすれば、オレ達はここで死ぬってことか」
この時、初めて田中は恐怖を感じた。
「お、おまえが懐柔策なんて考えたからだッ!」
「落ち着け。まだ殺されると決まったわけじゃないだろう」
「もう終わりだッ!オレ達はここで死ぬんだッ」
錯乱気味の田中の声が──隠し部屋─に響く。
そんな中、
「ぎゃあぎゃあ喚くなッ、耳が痛いぜ」
背後から聞こえた声。2人は口をつぐみ、恐怖の表情で振り返った。
「おまえは…」
そこには、無表情な顔で恭一が立っていた。
…「エンジェル・ダスト」?完…