エンジェル・ダストG-11
翌日。
キャサリンを乗せた〇〇731便は、定刻の9時半に〇〇空港を飛び発った。
それに合わせ、CIA香港支局のエージェントは昼前の到着前にペニンシュラ・ホテルに集まりつつあった。──客、ポーター、ドアマン。キャサリンと同じように、予めプラントされた者達。
彼らはキャサリンとの取引きを通じて、李海環が情報を渡す相手が誰なのか確かめる必要があった。
もし、それが人民解放軍や国家安全部の高官だったなら、ヘタすれば軍事バランスさえ変わっていた可能性もある。
だとすれば、李は──ターミネート─すべき人物としてリストアップされる。
エージェント達は、今や遅しとキャサリンが現れるのを待っていた。
蘭ことキャサリン・クーが、4時間のフライトを終えて香港に到着する頃、李の邸宅に再び佐藤と田中が現れた。
最初に来て3日後、彼らの中では、せめて──ディール─だけでも伝えたいと考えていた。
「防衛省研究所から参りました佐藤と田中ですが、李海環氏にお目通り願えますか?」
2人はどうなるかと心配していたが、
「どうぞ。李がお会いになるそうです」
そうスピーカーから声が聞こえると、施錠していた門扉が開いた。
2人は互いの顔を見合わせ、意外な事の運びに戸惑いを見せる。
「案外あっさりいったな」
「まだ分からんさ。これからオレ達のパーソナリティを売り込むんだ」
玄関までの道を歩く2人は、これから始まるタフなネゴシエートを心に刻み込む。
「さあ、こちらへどうぞ」
案内役に連れられ、佐藤と田中は初めて李邸の中に入った。
廊下を進む先々に飾られた、数々の高価な調度品は圧巻のひと言だ。
「こちらでお待ち下さい」
通された部屋も素晴らしいモノだった。漆喰の壁にドーム型の天井。壁には様々な絵画が飾られている。
部屋のソファに腰掛け、辺りを見回す佐藤と田中は慣れない雰囲気に困惑気味だ。
「さすが、アンタッチャブルな存在だ…」
田中が独り言のように感嘆の言葉を漏らしてあると、部屋のドアが勢いよく開いた。
そこに現れたのは、2人が何度も写真で目にした李海環だ。
佐藤も田中もソファから立ち上がり、深々と一礼する。