想-white&black-D-5
「花音」
ふいに楓さんが私を呼んだ。
「……はい」
私はそれに目を合わせずに答えた。
返事なんかしたくなかったけど、この人に今逆らったらまた昨夜のような酷い目にあうかもしれない。
「お前の学校の事だが、明日学校へ行け」
いきなり話を学校のことに振られ、眉をひそめる。
「でも私まだ制服を返してもらってないんですけど……」
そう言うと楓さんはこちらにちらりと視線を向けると、口元に酷薄そうな笑みを浮かべた。
なぜだかよぎった嫌な予感に思わず背筋がぞっと震える。
「花音、お前がこれから通うのは今まで行っていたところじゃない。明日行くのは鳳条だ」
「は? ほう、じょう……?」
ほうじょう……、ってもしかして『鳳条』のことを言っているんじゃ……。
『鳳条学園』
その名前は誰もが知ってると言っても過言ではないかもしれない。
名門中の名門であり、そこに通うのはいわゆる良家の子息や令嬢が過半数を占めている。
そんな所冗談じゃない。
「な、何で私が鳳条に行かなきゃならないっ、……んですか?」
「お前がこれから通うのは鳳条になったからだが」
驚きを隠せないでいる私とは反対に淡々と答える。
更に今おかしなことを口走ったような気が……。
「今……、何て?」
「聞いてなかったのか? お前は今度から鳳条学園の生徒になったと言ったんだ」
「……………ええぇぇっ!?」
どうしていきなりそんな話しになってるのか。
私が鳳条学園の生徒に……?
(あ、あり得ない……。)
「……り、です」
「何か言ったか?」
私の呟いた言葉が聞き取れなかったらしいが、楓さんは箸を止めることなく聞き返す。
「無理です!! 絶っっ対に無理です!! 大体なぜ私が入れるんですか?試験も何もしてないし、もし入ったってついていけませんから」
私は動揺を抑えようと思いながらも、突拍子のない話しに頭の中はこんがらがって早口に捲し立てていた。
だって入れるわけないしついていけるわけがない。
そんな私を見た楓さんはいつもの余裕の笑みを浮かべるとこう言った。