想-white&black-D-4
「楓様が何を思ってあなた様を迎え入れたのかは存じませんが、事実上愛人のようなものだと思っていただいて構わないと思いますよ」
「な、に……、愛人……?」
「つまりは夜の相手、そういうことです」
きっぱりと告げられた目の前が真っ暗になった。
つまり私がこのお屋敷に住む代わりに働くといった条件、それは抱きたいときに抱ける人形になれってこと……?
確かに昨日の夜、楓さんは嫌がる私を無理やり抱いた。
呆然としている私に理人さんが更に続ける。
「そうは申しましても楓様はご自分の立場も責任も十分に理解されています。今までお付き合いされてきた方々に本気になることはありませんでしたし、ましてや屋敷内に住まわせるなんてこともありませんでした。ですから花音様の事は私にも分からないのです」
「…………」
「では私はこれで失礼致します。ご夕食の時にまたお呼びいたしますので」
そう言って理人さんは一礼するとその場を離れて行った。
私はその場に立ち尽くして動けないまま、惨めさだけが残されるのを感じていた。
「どうした、花音」
「え……」
「また箸が進んでないようだな」
「あ……、ごめんなさい」
理人さんと別れてからしばらくして、瑠海さんと瑠璃さんに呼ばれ夕食をとっていた。
顔を合わせたくないと思っていたのに、楓さんは何事もなかったかのように目の前に座って料理を口に運んでいる。
彼の気配や視線が気になり、食欲もあまりわかずにいたところを楓さんが声をかけてきたのだ。
「まだ食欲がないのなら無理して食べる必要はない」
「いえ、平気ですから……」
気遣ってくれるような優しい言葉も素直には受け取れない。
理人さんの話を聞いてからますます楓さんの目的も分からないし、信じることもできなくなっていた。
ほんの少しだけいい人なのかもしれない、という思いを抱いたがそれもどこかへ消え去ってしまった。
思えば私から両親の形見を奪って、その上身体まで好きにされて。
どうせ飽きれば捨てるつもりなんじゃないだろうか。
本気で好きになった相手はいないって言っていたのだから。