想-white&black-D-3
「ええ、確かに花音様のご両親には楓様や私共々可愛がっていただきました。とても素晴らしい人達でしたよ。その記憶は楓様にとっても唯一穏やかでいられた貴重な時間でもありましたしね」
楓さんは昔からこの英家を継ぐ身として小さい頃から厳しく育てられ、ほとんど子供らしい時間はなかったと聞いていた。
その中で両親との時間が唯一心を許せる時だということになる。
「あなた様はその間宮ご夫妻の一人娘。だから引き取られたのです。どういうおつもりなのかは存じあげません」
「えっ?」
理人さんの言葉に一瞬耳を疑う。
執事だという側近中の側近であるはずの理人さんすら知らない理由。
あの人が本当に一体何を考えているのか余計に分からなくなってしまった。
ただの気まぐれ、なんだろうか。
「花音様」
「はっ、はい」
ぐるぐる考えていると名前を呼ばれ、なぜか理人さんがこちらに歩み寄ってきた。
「あ、あの……?」
この独特の冷気を纏った雰囲気のせいかつい身構えてしまう。
初めて会ってから今までら全く一つもニコリともしない。
「正直申し上げまして、私は今回花音様をお迎えすることを快くは思っておりません」
「え……っ」
突然そう言われて私は言葉を失ってしまう。
確かに、いきなり連れてきた見ず知らずの人間をいくら主人の命令とは言え、私なんかの言うことを聞くなんて嫌なのだろう。
「そう、ですよね。ごめんなさい……」
いたたまれず私がうつ向くと理人さんが続けた。
「楓様がこの英家の次期当主と言うことはご存知ですか?」
「あ、はい……。それは聞きました」
「あの方には幼少の頃から現在に至るまで縁談を結びたいと言ってくる家がたくさんあります。いずれはその中から楓様自らがお選びになった女性とご結婚されるでしょう」
この家柄とあの容姿では引く手あまたに違いない。
それにもし彼に地位や財産がなくても周りの女性が放っておかなさそうだ。
きっと良いとこのお嬢様と結婚するんだろう。
「ですから花音様のような立場の方がおられますと楓様のためにならないと私は考えております」
「私のような立場って……」
理人さんの言葉が引っかかり聞き返すと、彼の目がすっと眇められた。
そして何の躊躇いもなく口を開く。