想-white&black-D-2
「あの、ごめんなさい。目が覚めたんですけどどうしていいか分からなくて……」
「瑠海や瑠璃はそちらへ参りませんでしたか?」
「はい。特に誰も……」
「ならば楓様からは?」
「いえ……。朝に目が覚めた時にいなくなってしまったので……」
「……ご一緒だったのですか? 一晩中」
「えっ? あ、それは……」
淡々と交わされていた会話の中で、私の言葉を聞いた男の人は目を光らせてこっちを見据える。
冷ややかな眼差しを向けられ、思わず口ごもってしまった。
もしかすると一緒にいたことは言わない方が良かったのだろうか……。
男の人は厳しい目つきで私を見ている。
あまり好意的に思われていないのだけは分かった。
その場の空気と視線に耐えきれずもう部屋に戻ろうかと考えていた時、男の人は静かに口を開いた。
「申し遅れました。私は佐原理人(さはらりひと)、楓様付きの執事でございます」
「楓さん専用の執事……さん」
理人と名乗るその人は私に一礼はしたものの、冷たい表情を崩す様子はない。
「はい。楓様からあなた様のことは聞いておりますので何なりと」
そうは言っているけれど、それは楓さんがそう命令したからに過ぎないことはよく分かった。
「そうなんですか……。だったら聞かせてほしいことがあるんです」
「何でしょうか」
出会った時から何も知らされず、訳が分からないままここへ連れてこられた。
知りたいことはたくさんある。
「楓さんが……、あの人がなぜ私をここへ連れてきたのか知りたいんです」
「……理由、ですか」
私の言葉に理人さんの表情が一瞬だけ固くなったような気がした。
だがすぐに元の感情の見えない顔に戻っていた。
「最初はただの同情なんだと思っていました。昔、私の両親にお世話になったからとか、そういう理由で。それに私はここで働きながら住まわせてもらうっていう話だったんです」
私だってただで住むわけにはいかない、そう思っていた。
両親と楓さんの間に繋がりがあったからと言っても私自身は何も知らないし、そこまで普通するだろうか。
だからこそ余計に私を連れてきた理由を知りたかった。