特別な色の華-7
「地味だって、おっかしい。酒井はある意味一番派手だよ。」
華子は笑いを引っ込め、再び俊樹を真っすぐ見た。
「誰もあんたに逆らえない、ド派手なのに誰にも見えなくて気付かれない、真っ黒だよ。」
俊樹は一瞬呼吸を止めてその目を見るが、すぐに皮肉な笑いをつくった。
「それ、全然嬉しくない。」
動揺を隠しながら、俊樹は自然と華子の言葉を反芻している自分を感じた。
「そう?格好良いじゃん、悪の帝王っぽくて。」
「益々嬉しくないよ。」
自分の言葉に反応して笑う華子の無邪気な声が、俊樹の感覚を澄み渡らせた。
通り抜ける風が頬に当たり、前髪を揺らす。
悪くない気分だな、だけど…俺らしくもない。
俊樹は小さく舌打ちをしてパンを口に詰め込んだ。
***
華子はいつも俊樹にとりとめもない話をした。
今日の朝、タンポポの花を見た、とか。
交通標識の形が気に食わない、とか。
彼女はいつも俊樹の隣にいるわけではなく、気まぐれに彼に話し掛けた。
しかし、昼休みになると必ず俊樹のいる屋上に顔を出した。
まるで、もっとずっと前からそうしていたかのように、彼の隣で眠ることもあった。
そんな時、俊樹は華子の無防備な寝顔に何故だか苛立ちを感じ、無性に叫びたくもなった。
***
朝、俊樹が欠伸を噛み殺しながら廊下を歩いていると、目の前を華子が歩いていた。
俊樹はもちろん声を掛けずに観察する。
すると、視界の端から松下が歩いてくるのが見えた。
彼女は華子の存在に気付いて、目を泳がせる。
松下の表情からは、通り過ぎる華子に話しかけようかやめようかと迷っている様がはっきりと読み取れた。
俊樹がそのまま状況を眺めていると、華子は松下をちらりと見て、「おはようございます!」と怒鳴った。
不機嫌な声で喧嘩腰に言い放つと、華子は唖然とする松下を置いて、何事も無かったかのように軽やかに歩き出した。
廊下を歩いていた生徒達は困惑して眉をひそめたが、一部始終を見ていた俊樹は思わず洩れた笑いをごまかし、空咳を一つした。
---松下はどう思っただろうか。
その日の昼、相も変わらず巨大な弁当を至福の表情でたいらげていく華子の横で、俊樹は思い返した。