特別な色の華-6
「酒井は私が何しても同じ目で見てる。『すごいな』って顔も、『馬鹿だな』って顔もしない、なんにも変わらない。
私が何しても影響受けないから、だから気に入ってるの。」
本当にそうなのだろうか、俊樹は自分を見る。
「酒井はなんで私のこと観察してたの?」
「気付いてたんだ。」
あっけらかんと言う華子に、俊樹はどうでもよさそうに答える。
「私、自意識過剰だもん。そんなのすぐ分かるよ。」
なぜ、か。
「宮内のことが好きだから、だよ。」
俊樹はいつもよりも感情を込めた声で囁き、顔を近づけて華子の瞳を見つめた。
華子は俊樹を真っすぐ見たまま、にっこり笑った。
「はい、嘘。そんな前置きいいよ。」
「なんで嘘だと思うわけ?」
「私のこと好きな奴なんているわけないじゃん。」
「後ろ向き。」
俊樹がつまらなそうにペットボトルのお茶を一口飲む。
華子はふん、と鼻を鳴らした。
「前向きなのよ。あんたみたいなラスボスタイプに好かれたくないもん。」
「なんだそれ。」
「ね、なんで私なんか観察してたの?」
しつこく聞いてくる華子に呆れ、俊樹は仕方ないな、と素直に口を開いた。
「面白いから、お前。
教室にいる同じ色の女と同じ色の男の中で、お前だけ色がついてたから目についたんだな、たぶん。」
俊樹は、さっきの答えより余程嘘っぽいと思い自嘲気味に笑ったが、華子は表情を輝かせた。
「それ、最高の褒め言葉だね。何色?」
褒めてないんだけどな、と口元で呟き、俊樹は「赤っぽい色、かな」と答えた。
「赤、かぁ。」
俊樹は嬉しそうな華子を横目で見てため息をつき、苦い顔でパンを食べた。
「あんたさ、自分もみんなと同じ色だと思ってるでしょう。」
「思ってるよ、一番地味な澱んだ灰色。」
俊樹の言葉に、華子がさも楽しそうに笑う。