特別な色の華-17
お前は俺を騙してなんかいない。
お前は最初から最後まで、特別な色をしていたから。
俊樹がそう口に出して言おうとすると、軽く体当たりされ、バランスを崩してつんのめりそうになった。
「いってぇ。」
「やあ。」
さっきの弱々しい声とは打って変わり、華子はいつもの生意気そうな顔で彼を見ていた。
---今の会話は無かった事、か。
俊樹は心に小さな痛みを覚えたが、華子に調子を合わせて今会ったような顔をした。
「ああ、お前か。」
「私以外にあんたにタックルかます奴なんかいないでしょ。」
そう言って華子は満足気に笑う。
こいつは寂しくないんだろうな。
『俺は寂しいよ、もうお前に会えないのが。』
俊樹は華子に見えないように、声に出さずに唇だけ動かして呟いた。
「殺してくれるって約束、絶対守ってね。」
華子は笑顔のまま、軽い口調で言う。
「お前こそそれまでちゃんと生きてろよ。」
俊樹も口の端で笑いながら、冗談のように返す。
しかし、この会話が冗談などではないことを、二人共分かっていた。
「もちろん。そのときまで、私死なずにちゃんと待ってるからさ。」
そう言って華子は一瞬真剣な顔になり、俊樹を真っすぐ見た。
「約束。」
そう言うと、華子はいつもの勝ち誇ったような顔をして、「じゃあね」とあっさり走っていった。
俊樹はそれを追い掛けない。
---俺をずっと待っていればいい。
ずっとずっと待ってればいい。
それで長生きして、皴しわの頑固ばばあになればいい。
うるさい奴だって言われながら、見えない何かと戦い続ければいい。
…約束を破るわけじゃない、たまたま俺の方が先に死んでしまうなんて、ありそうなことだろう?
俊樹は自分に問い掛け、哀しさに自嘲的な笑いを浮かべた。
もうあいつに会えないのか。
俊樹はぼんやりと華子の後ろ姿を眺めた。
これが最後になるのだろう、そう思ったら、走り去る背中がやけに眩しく感じた。