特別な色の華-15
「…っ…なんで…?」
「わかんねえよ。」
俺だって分からない、分からないんだ。
----『誰もあんたに逆らえない、ド派手なのに誰にも見えなくて気付かれない、真っ黒だよ。』
華子の言葉がふと甦る。
お前は俺に気付いたじゃないか。
俺がここでくだらないため息をついていたことに、お前を観察していたことに。
俺も…お前に気付いたのか?
俊樹は妙な衝動を振り払うように身体を離した。
「死にたいなら、俺がやってやる。」
「え?」
「俺が殺してやるって言ってんだよ。」
華子は、涙の跡の残る顔に会話にそぐわないぼんやりとした表情をのせて、俊樹を見ている。
「だけどそれは今じゃない。今やるのはお前が俺を使って自殺するのと同じだからな。」
俊樹は大きく息を吐いて、すっと立ち上がる。
「俺が殺す気になったときに、やる。
いつ殺されるか分からない状態でびくびくしながら暮らせ。」
俊樹は皮肉な笑いを浮かべて見せたが、なぜだか涙が出そうになった。
「あ、りがとう。」
彼を見て、華子は穏やかに笑う。
「変なこと言うなよ。お前の口からそんな言葉が出るのは不気味だ。」
俊樹は目尻に溜まった雫をごまかして、雨に打たれた。
彼の背後で華子が笑った。
いつもと同じ、生意気で誇らしげな笑い。
その無邪気な声に俊樹は深い安心感を覚えた。
…この笑顔が存在してなかったら、俺は駄目になる。
その声が、必要なんだ。