特別な色の華-13
「何してんの。」
俊樹が少し大きい声で呼び掛けると、華子の肩がびくっと反応した。
怯えたような表情で振り返り、彼の存在を認めると、驚きと安堵の入り混じったような顔をした。
制服がひどく乱れていた。
ボタンがちぎれて取れている為に、襟元が不格好に開いている。
靴は履いているものの、靴下は片方脱げて白い足には痣が浮かんでいた。
その姿を見た瞬間、俊樹の中で、怒りや哀しみや虚しさや無力感が全てないまぜになったような、どれでもないような感情が一気に渦巻いた。
俊樹の顔が引き攣っていくのに対して、華子の表情はいつも俊樹に対して向けているそれと同じだった。
「すごい汗びっしょりじゃん、どしたの?」
「何でもないよ。」
額を拭いながら言い、俊樹は華子を睨んだ。
「何してんだよ。」
華子は俊樹の言葉には答えずに、視線を逸らした。
校庭側に向き直り、片方の足をぶらぶらと揺らす。
「私、今まで馬鹿みたいだったよね。」
華子は、独り言のように、雨に向かって叫ぶ。
「でも、変えたくなかったの。そうしていたかったの。」
そこまで言うと黙り込み、俊樹の方へ振り返る。
その顔は、穏やかに笑っている。
「だけど…やっぱり全部無駄だったのかな。」
俊樹はその表情に息を呑む。
『今更何言ってんだよ。』
『こんな、格好悪いことすんなよ。』
『…何があった?』
色々な言葉が俊樹の中で生まれて来る。
「死ぬなよ。」
しかし彼の口から出てきたのは、短くも透明な、切なる願いだった。
その声はまるで彼ではないように情けなく、弱々しい。
俊樹を見る華子の瞳が揺れながら潤んだ。
「なん、で…?」
そんな、普通の奴みたいな顔するんじゃねえよ。
華子の無防備な顔を、俊樹はじっと見る。