特別な色の華-11
「まぁ、でも…今日で終わりだし?」
…は?
「やっと清々しい青春が送れるー。」
「あっはは、それうける。」
何のことだよ、と直接問い詰めたくなるのをこらえて、俊樹は聞き耳をたてる。
「今日の朝あいつの調子こいた顔見てもさ、なんか笑いそうになっちゃって、危なかったー。」
「すごい分かる、それ。」
「やっぱさ、ああいう奴が女に生まれちゃったのが間違いっていうか。」
「口で色々言ってても結局力じゃ対抗出来ないもんね。」
「今日のいつだっけ?田口達が言ってたの。」
「知らなーい。テキトーに食っちゃってって言っただけだし。」
俊樹の頬がぴくりと動く。
「かわいそー。もう学校来れないんじゃん?」
「自業自得でしょ。」
「つーかうちらが指示したわけじゃないから。田口があのブスのこと可愛いとかほざいてたから、言ってみただけだし。」
「でもあんな奴で勃つとかありえないよねー。神経疑うわ。」
高い笑い声が俊樹の耳に重なり、いつまでも響いた。
俊樹の身体は頭のてっぺんから足先まで硬直したようになり、ひたすら川崎らの言葉を反芻していた。
俊樹はゆっくりと、田口、という人物を記憶から掘り起こす。
隣のクラスの柄の悪い、というよりも悪ぶっている図体のでかい男。
成績も素行も悪い生徒だ。
あいつが…なんだって?
…田口が、宮内を?
「何言ってんだよ…。」
わざと口に出して言ってみた言葉は、不安定に宙を舞う。
何分経ったのか、俊樹が周囲を窺う余裕を取り戻した時には、川崎達はいなくなっていた。
俊樹は、なぜだか自分が冷静に、落ち着いていれば何も起こらないように感じて、いつもと同じ昼休みを過ごし、いつもと同じように午後の授業に出席した。
しかし、屋上にも教室にも、華子の姿は無かった。
さも愉快そうに目配せをし合う川崎達を見て妙な焦燥感を感じつつ、俊樹は苛立ちを隠し切れずに机を指で叩いた。
ホームルーム終了のベルが鳴り、同級生達が次々に席を立って行っても、俊樹は座ったままだった。
今日のテレビ番組の話をし、教師の癖を真似て笑い合うクラスメートをどこか非現実的に感じながら、俊樹は待っていた。
華子が、いつもと同じ生意気な顔で教室に帰ってくるのを。
俊樹は、華子の席に掛けてある彼女の鞄を見た。