特別な色の華-10
***
「あ、の…酒井くん。」
校門前で遠慮がちに呼び止められ振り返ると、松下が怯えたような目で俊樹を見ていた。
こいつが俺に何の用だ、と不思議に思いながら、いつもよりは愛想の良い顔をして見せる。
「何?」
「あ、あの…えっと。」
元々の内向的な性格に加え、何か言うのを躊躇っているのか、ひどく歯切れが悪い。
なんだ?
俊樹が苛立ちを隠し、優しい表情をつくって目線で応えると、松下は意を決したように口を開いた。
「あの…宮内さんに、気をつけてって言っておいて。」
「は?」
「あ、でも私が言ったって言わないで…。」
それだけ言うと、心配そうに周囲に目を走らせ、足早に去って行った。
後に残された俊樹は訳が分からないまま、松下の遅い歩みをぼんやりと眺めていた。
どういう意味だ?
少し嫌な感じがするが……昼にそれとなく伝えればいいか。
煮え切らない気分のまま、俊樹は教室に向かった。
---気をつけて、か。
その日の昼休み。
はたして華子にそんなことを言う意味があるのだろうか、と俊樹はため息をつきながら、屋上に繋がる階段を重い足取りで上っていた。
宮内、と聞こえた気がして、俊樹はふと足を止める。
普段あまり人の来ない東館階段。
誰だ…?
俊樹は息を潜め、耳をそばだてる。
「あいつ本当うざいんだけど。」
川崎、か。
苛立ちを隠すこともなく、吐き捨てるように言う声。
その矛先は華子に向かっているようだ。
「自分は常に正しいって顔してさぁ、あの性格キモいよ。」
「つーか、ない。かなりないわ。」
川崎を喜ばせようとしているのか、高いトーンで同意する女子生徒達にうんざりして、俊樹は天井を見上げる。
面倒だな…。