魔性の仔B-7
「どうじゃ?初手はあのようなモノで」
刈谷が帰った後。馬遥遷は戻って来た鵺尊と算段していた。
「良いと思います。刈谷は私と──あの方との繋がり─に気づいております。必ず戻ってまいるかと…」
馬遥遷は、鵺尊の意見に満足するとシワだらけの顔を一層クシャクシャにした。
「その時こそ、ゆるゆるとあやつを捕え、そして──アレ─を我らの元に取り戻すのじゃ…」
そう云うと深く刻まれたシワを醜く歪めた。
夜。
となりのベッドに眠る真弥を見て、刈谷はそっと彼女の頭を撫でる。
──あれは、何だったんだ?
昼間を回想する。
那国村を離れ、予定より遅れて中尊寺のコッテージに帰り着くと、真弥は抱きついて出迎えた。
その仕草は、何年も離れ々になっていた家族が再会したように。
が、次の瞬間、真弥は素早い動きで刈谷から離れた。
「…ど、どうしたんだ?」
あまりの不可解な行動に、刈谷は追いかける。が、真弥は部屋の隅にしゃがみ込むと恐怖に顔を強張らせて震えていた。
それからが大変だった。
夕食時もずっと、中尊寺の影に隠れて顔を合わせようとしないばかりか、彼女が執筆作業中になっても真弥は刈谷に近づかなかった。
そして夜半過ぎ、ようやく眠った真弥を引き取りベッドに寝かせたのだ。
──出掛ける前はあんなにグズってたのに、戻った途端に逃げ回って…。
真弥の寝顔を眺めながら、刈谷の思考はある方向へとむかった。
──やはりあの村だッ、この子と那国村は何らかの関係があるんだ。
しかも、あの場所は彼女にとって忌まわしい過去があった。だから彼処を訪れたオレから匂いを察知すると逃げ回ったんだ。
導き出した結論に確証を持った刈谷は、そっと部屋を出た。──共有者、中尊寺の元へと。
ドアは静かに閉じられた。すると、ナイトランプだけの薄闇にピジョンブラッドの瞳が光った。
「先生、夜分にすいません」
深夜、自室を訪れた刈谷に中尊寺は違和感を持った。担当者が作家の執筆作業を邪魔することなど考えられないからだ。
やや気分を害しながらも、中尊寺はドアに近づくと、
「こんな時刻に。私が執筆中なのは…」
ドア越しに聞こえる中尊寺の叱責を、刈谷の声は遮った。