魔性の仔B-10
「やめろおおォォーーッ!」
思わず真弥の身体を掴み、ベッドの下へ投げ落とした。
「はッ!はッ!…はあッ…はあッ…」
肩で荒い息を吐きながら、刈谷は慌てて真弥に近寄った。
「ま、真弥、大丈夫かッ?怪我はないか」
刈谷は気を失っている真弥を抱きかかえ、そっとベッドに寝かせると、床に散らばった下着やパジャマを着せてやり自身も寝間着を身に付けた。
「…う…ん…」
すると、真弥が目を覚ました。刈谷はベッドの傍らに腰掛けて彼女の顔を覗き込んだ。
そこにあったのは、先ほど見せた妖しさは無い、いつもの少女らしい顔だった。
「大丈夫か?どこか、痛いところはないか」
朦朧とした意識の中で刈谷の声を聞いた真弥。その瞳に彼の顔が映った。
「あッ!ああッ!」
次の瞬間、真弥はベッドを跳ね起き部屋の隅に逃げ込んだ。
──昼間と同じ反応だ…。
身を縮込ませガタガタと震える幼い身体。こうなってはここには置いておけない。
「ちょっと待ってろよ」
そう云うと再び中尊寺の自室を訪れ、理由を話して彼女の部屋に引き取ってもらった。
「…まずいな、このままじゃ」
部屋にひとりとなった刈谷は再び思案する。──このままでは中尊寺に迷惑を掛け続け、しいては出版にも支障をきたすと。
──しかし、これほどの脅えよう…よほど恐ろしい目に遭ったに違いない。
「いったい、あの山村で何があったんだ…」
刈谷の中で──再びあの山村に行かねば─という思いが広がった。
…「魔性の仔」B完…