「午後の人妻 童貞嫐りE」-4
心臓がドキンと大きく打ってから、
早鐘のように高鳴り、
息をするのも苦しいくらいになっていた。
万引きの瞬間を目撃するのは初めてのことで、
かえって自分のほうが動揺し混乱していくようであった。
(落ち着くのよ。
慌てないで落ち着いて行動するのよ)
心のなかで幾度も繰り返して、
自分に言い聞かせるようにした。
スーパーマーケットでもコンビニでもそうだが、
客が店内で自分のカバンやバックに店の商品をしまい込んでも、
それだけで万引きの犯罪としては成立しない。
そんな客を店内で取り押さえても、
「代金はレジに行って払うつもりだった」
とシラを切られると、
店側ではお手上げだからだ。
万引きを犯罪として成立させるためには、
客がレジを通さない商品を持って、
店外に出るのを待たなくてはならない。
客が未会計の商品を店外に持ち出したところで、初めて犯意が認められて罪となるのである。
そのことは由子も店の研修で教えられていた。
彼女は心臓を高鳴らせた緊張のなかで、
美少年の挙動に注目した。
少年は2冊の雑誌をバックに放り込んで、
一刻も早くそこから立ち去らなければならないのに、
なぜかギクシャクとした妙な動き方をしているのだった。
どうやら彼は初犯で、
万引きという犯罪に初めて手を染めたようであった。
その緊張と昂奮、
露見したらどうしようという不安と心配、
それが動きを奇妙なものにしているようだった。
彼はバネ仕掛けの人形のようにギクシャクと歩きながら、
雑誌コーナーから出入り口のドアへと向かった。
レジカウンターにいるオーナー夫人が彼に注意を払っていたら、明らかに奇妙な動きから不審の念を抱いたにちがいない。
だが、夫人はタバコカートンを整理したあと、カウンターに伝票を広げて、そのチェックに余念がなく、少年の存在には気づいていなかった。
こうなれば由子がひとりで処理するしかなかった。
(落ち着くのよ。
慌てないで落ち着くのよ)
また、心のなかで自分に言い聞かせるように言った。
少年がギクシャクとした動きで、
出入り口のドアを開けて表に出ていった。
そのまま表に停めてある自転車に向かって、
歩度を速めたようだ。
少年が表に出たことで、万引きが罪として成立したことになる。
もう、
声に出して彼を制止してもかまわなかった。
由子はあとを追いながら、
「ちょっと待って……」
と声に出した。
いや、
出したつもりだったが、
言葉にはなっていなかった。
過度の緊張から口の中がカラカラに渇いて、
言葉が喉に絡みついたようになって発せられなかったのだ。