やっぱすっきゃねん!VH-1
第1試合終了後、一哉は球場の出口近くで榊と再会した。
「…やはり、チームを掌握しきれていなかったのが敗因だな」
選手の落ち度を徹底的に庇う榊。その変わりない姿勢に、一哉は感銘を受ける。
「しかし、その成果は秋に表れますよ。特に、あのピッチャーは意気に感じてるはずです」
「そう思ってくれればね。彼は高校でも活躍出来る才能を持っているのだから」
榊は、そう語ると何度も頷いてから、──参った─とでも云いたげな顔を一哉に向けた。
「しかし、あれはやられたな」
「……?」
「最終回だ。まさか、佳代がマウンドに上がるとは思ってもみなかったよ」
「ああ、その事ですか」
一哉はサラリと受け流す。
「ところで、佳代をピッチャーにという案は君の考えかね?」
「いえ。あれは、ウチの部員が向いていると助言してきたんです。
試しにやらせてみたら、使えそうだったので…私も気づきませんでした」
真実を聞かされた榊は表情を曇らせる。
「しかし、あれでは…大丈夫なのか?」
「…仕方ありません。ダメなら使わないだけです」
さも、当然という返答に榊は苦笑いを浮かべた。
「相変わらず手厳しいな。だが、秘策は有るのだろう?」
「まあ、誰でも1度は通る道です。要はメンタルレストですから」
一哉はそこで話を切り、姿勢を正すと頭を下げた。
「この度は、監督就任おめでとうございます」
「何を云ってるんだ。仕方なく受けたんだよ」
謙遜気味に笑う榊に対し、一哉は含み笑いで応える。
「相変わらず、榊さんは素直じゃありませんねえ」
意味深な語り口に、榊の顔がわずかに赤くなった。
「昨年の秋季大会。──来年の青葉中は、ウチの驚異になりそうだな─そんなこと云えば、誰でも気づきますよ」
ズバリ当てられて、榊はバツの悪い顔をする。
「そんなにマズかったかな?」
「ええ。少なくとも、私はすぐに気づきましたよ」
榊は観念したように表情を崩した。
「昨年末だったかな…監督の竹野君に頼まれてね。
最初はコーチの予定だったのだが、彼が異動となってしまってね」
「しかし、昨年、青葉中を去られる事になって、正直、しばらく野球から離れられると思ってましたよ」
そんな心配に榊は眉尻を下げて笑うと、
「私もそう思ったのだがね。なかなか難しいよ。あのピッチャーに出会ってからは…」
あのピッチャー──13年前の藤野一哉。
榊は今も、彼のような選手を追い求めているのだ。
それから、しばらく親交を温めた後、2人は分かれて球場を後にした。
榊は東海中学野球部監督として。明日から、部員達を精進させるため指導に明け暮れる。
対する一哉は、勝ち抜いた青葉中学野球部を、さらなる高みへと導くために手助けを続ける。
これからも好敵手として在るために。