やっぱすっきゃねん!VH-6
「アダダダッ!痛ってえ…」
足立は顔をしかめ、ゲージの中を跳ね回る。
「足立さん。今のじゃバレバレですよォ」
「うるせえよッ!」
笑っている下加茂に悪態をつく足立。
「当たっただけでも大したモンだろがッ。先週まではカスリもしなかったんだぞ」
「でも…あの頃と比べてキレは落ちてますよ」
「…そうだな…」
残念そうな顔をする下加茂。足立も頷いて佳代の方を見た。
「まあ、昨日よりはマシみたいだけど…」
その後、足立をライトフライに打ち取ったが、一ノ瀬、達也、淳、稲森と長短打でヒットを連打された。
「ダメだな…」
永井はゲージ裏から佳代の様子にポツリと呟くと、
「佳代ォーーッ!交代だあ」
「えッ?もう…ですか」
「ああ。これ以上、投げ込んでもダメだろう」
厳しい言葉。──己の情けなさに佳代は目頭が痛くなる。
──でも、今の自分じゃ仕方ない…。
佳代はマウンドを均すと、直也と交代した。
「佳代。明日からバッティング・ピッチャーはいいから。ブルペンで投げ込みにだけ専念しろ」
永井は、守備に向かうのを呼び止めて指示した。佳代は帽子を取って頭を下げると、無言でライトへ向かった。
夕暮れが近づき、空が薄暮に染まる中。直也はひとり、駐輪場に佇む。
「…あッ」
佳代が校舎から現れた。
直也の顔を見た途端、俯き、視線を合わさず駐輪場に近づいて来る。
──やっぱりコイツ。
直也の頭の中に達也の声が浮かんだ。それは30分前、練習を終えた時に彼がこっそりと云ったのだ。
──あのままじゃダメになる。なんとか気持ちを立ち直らせないと。
「なあ佳代…」
しかし、佳代は直也の声を無視して帰る準備に忙しい。ようやく荷物を固定し終えると、
「…じゃあ明日」
と、云って自転車に跨りペダルをこごうとした。
「ちょっと待てよッ!」
直也は思わずハンドルを掴んだ。次の瞬間、自転車はバランスを崩し、佳代は地面に倒れた。