やっぱすっきゃねん!VH-5
翌日。
「佳代ッ!そろそろいくぞ」
永井に呼ばれ、佳代はブルペンからマウンドへと駆けて行った。
「澤田さん、頑張って」
先にマウンドで投げていた中里は、窪みを均しながら声を掛けて下がって行った。
青葉中名物、試合形式でのバッティング練習。
試合中と同じように、ストライク、ボールをカウントして打てば出塁する。
当然、守っている側もアウトにしようと必死にプレイする。
この練習の結果がそのまま、試合出場につながっているため、部員達の真剣具合は尋常ではない。
打者も走者も守備も、1球への集中力が鋭敏になり、ついては試合に対する選手ひとり々の取り組み方が向上する。
「お願いしまーーすッ!」
打席に入ったのは足立。バットに当てる巧さはチーム随一だ。
佳代は数球、投球練習を行ってから足立を迎えた。
──今日こそは結果を出して…。
キャッチャーは、控えの下加茂がマスクを被る。
──まずは…。
サインは内角低め。
佳代はセットの構えから投げ込んだ。外から内──いわゆるクロスファイア─で、足立の足元にボールが迫って来る。
足立はステップしただけでボールを見逃した。──軌道を確認するために。
「いいトコ突いて来るなあ…」
足立は首を振り々、感心した様子で構え直した。
その一連の動作を、下加茂はジッと見つめている。
──左足の踵が浮いてる…内角狙いか。
下加茂のサインは同じコースへのスライダー。佳代は頷くと、グラブの中でボールの縫目に指を合わせた。
2球目。投げたボールが同じ軌道で足立に迫る。が、1球目よりコースが甘い。
足立はステップから左足を開いてスイングする。その瞬間、ボールは大きく内へと食い込み、ひざ下に変化した。
「アガッ!」
かろうじてバットに当てたボールは足立の左足甲を直撃した。