やっぱすっきゃねん!VH-3
「ただいま…」
佳代が自宅に帰りついた時、父親の建司も母親の加奈も用事の最中なのか、誰も家には居なかった。
しばらくすれば、弟の修も帰って来るだろう。佳代は自室から下着と部屋着を持ってバスルームに入った。
──なんであんなにダメだったのかなあ…。
顔に水の粒を浴びながら、佳代は試合の状況を頭に浮かべる。周りの雰囲気に呑み込まれてしまい、投げる事に汲々としてしまった。
プレッシャーが身体を支配し、投げたボールはイメージとはほど遠かった。
──あんな無様な姿…せっかく、皆んなが必死に点を取ってくれたのに…。
無念さを募らせる。なまじ、野球に正直である佳代。だから失敗する度に、どんどん自分を追い込んでしまう。
直也達が心配したのは、そんな彼女だった。
夕食の時刻。いつもは賑やかしい食卓も、その日ばかりは静かだ。予め修が理由を話していたため、誰も試合のことに触れようとしなかった。
──監督ばかりか、家族まで…。
皆が自分を庇護してくれる。ありがたい行為なのに、佳代の気持ちはさらにに落ち込んでしまう。
「…ご馳走さま…」
佳代は席を立った。食事はいつもの半分くらいしか食べていない。そんな娘に、加奈は何かを云い掛けたが喉元で止めた。
──自身で解決することよ…。
ダイニングを後にし、自室へ向かう佳代を心配気に見つめる加奈と修。
「父さん、姉ちゃん大丈夫かな?」
「心配するな。姉ちゃんはそんなに弱くは無いよ」
ただ、父親の建司だけは笑みで見つめていた。
──やっぱり、自分には向いてないんだろうな…。
夜9時を過ぎ、佳代の部屋の明かりは消えていた。が、先ほどから何度もため息混じりに寝返りを打っていた。
眠れない。頭では整理がついているのに、胸の奥で燻り続ける。
「…姉ちゃん…起きてるか?」
その時、何の前ぶれも無く修が部屋に入って来た。
「何?」
「父さんが呼んで来いって」
「えッ?」
修の言葉に佳代はベッドから跳ね起きた。
──今頃、何だろう?
ベッドから這い出て部屋を出ると、修は何も云わずに自分の部屋へと消えた。
佳代は──何か変だな─と、感じながらも階下へと降りて行った。
「あッ、降りて来た。リビングで待ってるわよ」
廊下に降りたのを見つけた加奈が笑顔で指差した。佳代は云われるまま、リビングのドアをそっと開けた。