やっぱすっきゃねん!VH-12
──まだ甘いな。
捕った下加茂は早いテンポから2球目のサインを出す。──相手に考える時間を与えない。
合わせるように、佳代も短い間合から2球目を投じた。
ボールは1球目よりやや高めのストレート。そのボールがさらに内に食い込む。
バッターはステップしてから、身体を中に入れた。デッドボール狙いだ。
ボールがバッターの左腿に当たった。主審が両手を広げて試合を止めた。
痛みに顔をしかめ、1塁へ向かおうとするバッターを主審は止めた。
「オーバーボックスッ、ストライクツーッ!」
どうやら、ボールに当たりにいって、左足が打席から完全に出たのだろう。
──ヨシッ、ここだ。
下加茂は間を置かずに3球目のサインを送る。
「プレイッ!」
試合が再開した途端、佳代はすぐに3球目を投げた。今度は一転、外角低めへ。
だが、リリースの瞬間、指がわずかに掛り過ぎてボールが高めに浮いた。
しかし、バッターは付いていけなかった。対角的な攻めにバットは空を斬った。
「ゲームセットッ!」
主審のおおきな声がマウンドまで響いた。
──終わった…。
緊張から解放された佳代の表情が崩れる。思った投球が出来なかった事など頭に無い。
ただ、役立てたことに喜んだ──。
「やれやれ…何とか抑えてくれたな」
永井は葛城と握手し、チームの勝利に安堵した。
「点は取られましたが、澤田さんが最後まで投げれて良かったですね」
「…まあ、とりあえずは…」
葛城の笑顔の言葉に、永井は笑わず慎重な態度を見せた。
──今回は藤野さんのアドバイスを呑んだが…。
それは、1回戦の翌日。佳代からの連絡を受けた後、永井の携帯がアラームを鳴らした。
相手は一哉だった。
「永井さん。昨日はお疲れ様でした」
「ああ、藤野さんッ。どうしたんです?」
「次の2回戦の件で、相談したいことがあるんです」
一哉は挨拶もそこそこに、思い描いたことを永井に伝える。
「丸々1イニング、佳代に投げさせてもらえないですか?」
提言を聞いた永井の顔が曇る。
「しかし、昨日のような投球ではちょっと…」
「もちろん、点差が開いた場合で結構。要はアイツを立ち直らせるためです。このままではダメになってしまう」
要請ともとれる一哉の言葉に、永井は渋々従がい佳代を投げさせた。が、正直云って今日の内容では今後の採用は難しいと思えた。
──これでベスト16。次の試合が明後日で、その2日後からは3連戦…どうするか。
迷う気持ちの中、永井は球場を後にした。