やっぱすっきゃねん!VH-11
ビュンッ──
ボールは強い振りから放たれ、ひざ元に構える下加茂のミットに音を立てて吸いこまれた。
「ストライクッ!」
主審の右手が上がった。
──いけるッ!
ベンチで見つめる直也や達也、ブルペンの淳、それに永井や葛城も1球を見た途端に安堵の表情に変わった。
何より、そう思ったのは佳代自身だった。
──これならイケるかも。
そう思った下加茂は、ストレートだけで勝負した。
しかし、それほど甘いモノではない。最初のバッターはセカンドフライに打ち取ったが、続くバッターに3連打を浴びて満塁を迎えた。
──まだ本調子じゃないな。
ここで、下加茂は初めてスライダーを要求する。が、ボールは構えたところから大きく外れ、バックネットまで飛んで行ってしまった。
ワイルドピッチで点を与えた後、何とか2アウトまでこぎつけたが、次のバッターには左中間を破るタイムリー・ヒットを打たれ、さらに2点を追加された。
「まだ無理か…」
永井はここでタイムを取った。伝令役でベンチを出たのは直也だ。
内野手がマウンドを囲むように集まった。その中心で佳代は俯いている。
そんな姿を見た直也は、微笑み、優しい口調で云った。
「佳代。下向いてないでブルペン見てみろよ」
「エッ…?」
佳代は顔を上げてブルペンの方を見た。そこには、誰の姿も無かった。
「ちょ、さっきまで淳が投げてたじゃない!」
焦りの表情の佳代に、直也は力強く頷く。
「監督はおまえに試合を任せたんだ」
「そんなッ、ヒット4本打たれて3点も取られても?」
「3点取られても、まだ6点差だ。それにあとひとりだ。頑張れよ」
──そんなこと云ったって…。
不安な顔でベンチを見た。すると、永井は佳代の視線に気づいて大きく頷いて見せた。
「頑張れよ…」
ひと言残して直也は帰って行った。内野手達もマウンドを後にした。
瀬高中のバッターがネクストから打席に向かう。佳代はもう1度ベンチを見た。
前出の選手7人はもとより、永井や葛城までもが立ち上がっている。
──誰も平静で投げてない…か。
佳代の中で、一哉や直也の言葉が頭に浮かんだ。
──ここでダメなら、どうせこの先ダメだ。
心の中に、──開き直り─の思いが芽生えつつあった。
試合が再開された。下加茂のサインに頷き、セットポジションに構える。
1塁にいるランナーに視線で牽制した後、早いステップから1球目を投げた。
ストレートがひざ元に食い込んでくる。バッターは球筋を確かめながら見送った。