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やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

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やっぱすっきゃねん!VH-10

 8日後。

 大会5日目。第3試合。青葉中対瀬高中。
 試合は9‐0。青葉中のリードで7回裏、瀬高中の攻撃を迎えた。
 試合は序盤で決まっていた。3回までに8点を奪うと、永井はあえて先発の稲森やレギュラーを下げた。
 キャッチャーを下加茂に替え、ショートに秋川、レフトに吉永など3人の控えを出場させた。
 ピッチャーも中里から直也へと継投し、試合勘を鈍らせぬようにと投げさせた。

 そして最終回、ブルペンには佳代と淳が投げている。

「佳代ッ、行ってこい!」

 永井は迷うこと無く佳代をマウンドに送った。この1週間、わずかづつだが彼女の投げるボールにキレが戻ってきたと思ったからだ。

 佳代がマウンドに向かう。途端に、球場の観客席から声援や驚きの声が挙がった。

 8球の練習を終え、下加茂が駆け寄った。大会で佳代とバッテリーを組むのは初めてだ。

「澤田さん。頑張っていきましょう」
「う、うん…」

 励ましに笑顔を作るが顔が引きつってしまう。──1回戦での悪夢が甦る。

「澤田さん。オレのミットだけ見て投げて下さい」

 下加茂は、白い歯を見せて笑うとマウンドを降りて行った。

 ──そうだ。とにかくミット目掛けて投げなきゃ。

 プレイが掛った。
 バッターは右打席で構えた。その目は1回戦同様、険しい。
 いつもなら、バッターの仕草を見つめる下加茂だが、まったく気にせず佳代だけを見ていた。
 サインは内角のストレート。最初からひざ元にミットを構えている。

 ──あそこに…。

 佳代は頷くと左足をプレートにかけた。ゆっくりと両足のスタンスを合わせ、両手を顔の前で構える。
 その間、視線はミットから外さない。

 ひと呼吸置き、佳代の右足が小さく後方に伸びた。わずかに曲げた足が空を蹴り、一気に前へと伸びていく。
 右足がマウンドの窪みに埋まり、右手に着けたグラブが下加茂の方を向いた。
 腰を起点に上体が回転を始め、伸ばした右手が引き戻される。
 ねじれた上体がホームと正対し、すべての力が最後に伸びていく左手に集約された。


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