精神科医佐伯幸介出会いサイト物語
〜カルテNo1の1 藤堂倫 27歳 独身 新聞記者〜-3
「名前」 佐伯 幸介(サエキコウスケ)
「年齢」 三七才
「職業」 精神科医
「PR」 貴女の心と身体を繋ぎます。(料金は応談)
倫は出会いサイトの掲示板を検索していた。ほとんどが怪しい業者かありふれた男に思えた。ありふれた男など倫の周囲には掃いて捨てるほどいる。
(心と身体を繋ぐ?)
(どういうこと?)
何だか胸の奥に火がついた気がした。
倫は返信ボタンを押していた・・・。
三時間前
倫は待ち合わせの場所へと歩を進めていた。
退社後の時間とは言え、初夏の日差しはまだ強く降り注いでいた。
約束した時刻に少し遅れそうな倫は小走りに歩いた。
僅かな風にざわめく街路樹が心地よかった。
だが、待ち合わせの場所に近づくにつれ、倫は不安を覚えてきた。
(このまま帰ろうかしら・・)
出会いサイトを利用するのははじめてだったが、約束を反故にして帰ってしまっても自分のことが知られる心配はなかった。その程度には注意してメール交換をしたつもりだ。
だが、胸の奥についた火が倫の足を進めていた。
約束の時間に倫が到着すると、すでに幸介は待っていた。
二人はならんで歩いた。
歩きながら倫はそっと幸介を見上げ観察した。
倫の身長は165CMでさらにハイヒールをはいていたが、幸介の鼻から上が倫の頭を超えていた。
薄いブルーのストライプシャツに濃紺のスーツをおしゃれに着こなしている。
第2ボタンまではずされているシャツからは、胸の筋肉がわずかに見えていた。
糊のきいたシャツとくっきりと折り目のついたズボンが清潔感を漂わせている。
切れ長の一重の目に大きめの鼻、唇は薄くしまっている。
決して二枚目ではないが、それなりに魅力的な顔だった。
髪の毛は短めにカットされ、プロフの年齢よりは若く思えた。
第一印象は合格といってよかった。
すれ違う男女が二人を振り返っていくのが気持ちよかった。
不安はいつのまにか消え、わくわくとした嬉しささえこみ上げて来た倫は、単純な自分に心のなかで苦笑していた。
幸介の予約してあったイタリア料理店に入り、ワインを飲みながら会話を楽しむ。
「心と身体を繋ぎます・・・って?」倫は聞いた。
「うん、その話しは時間をかけてね。」
「あの・・、費用は応談って・・・?」
「ああ、心配ないよ。時間をかけて、君が開放されたら相談しよう。」
これだけで信用している自分に倫は驚いていた。
幸介の話題は幅広く、また倫の興味ある分野の話題が多かった。
話しながら時折みせる幸介の笑顔は思ったとおり魅力に溢れていた。
笑顔になると幸介の目が二重になることを倫は知った。
選んだワインもおいしく、倫はいつもよりオーバーペースに飲んでいた。
時間のたつのが早く感じられ、幸介が時計を気にしているのを倫は切なく感じていた。倫は幸介の言葉を待っていた。
「ホテルを予約してあるんだ」幸介が言った。
あまりにあっさりとした言葉に倫は驚いた。
清潔感さえ漂う誘い方だと思った。