エンジェル・ダストF-8
「もちろん、おまえ達ともだッ」
「あたり前だッ、だからこそオレ達は──直轄の名無し部隊─なんだ」
この言葉に谷崎以外の男達は頷いた。
4人は腕時計を見た。
「今が22時ジャスト…ここからは2手に別れて行動しよう」
「分かった。オレはこいつと宮内の身柄確保にむかう。そっちは間宮の方を頼む」
「集合は?何時にする」
「そうだな…時刻は翌0100、場所は〇〇ふ頭の第3ターミナルにしよう」
男達は意思のすり合わせを終えると部屋を出た。
そして、地下駐車場で別々のクルマに乗り込むと、もの凄い勢いでホテルの敷地を飛び出して行った。
「さあ、こちらへどうぞ」
李海環に誘われるまま、恭一は彼のプライベート・ルームを訪れた。
「あなたとならコレなど良いでしょう」
李は重厚な造りのキャビネットから、バランタインの30年モノとグラスをふたつ取り出した。
濃い瑚珀色の液体がグラスに注がれ、伴って空気が瓶を叩く音が心地よい。
「さあ、どうぞ」
恭一はグラスを重ね合わせて液体を口に含んだ。
なめらかな舌触り、それでいて力強い香りが一気に広がる。
味を堪能しながら、もうひと口飲み込むとグラスをテーブルに置いた。
「ところで李さん。私がこの時刻に伺ったのは2点。まず、第1が2人の男をここに匿いたいんです」
そう前置きすると、これまでの事件の推移と、今後犠牲者になるであろう東都大教授間宮と現職刑事の宮内の名をあげた。
「柴田と椛島を消した奴らです。必ずこの2人も消されると考えていい」
恭一はいつになく興奮した様子で李に迫る。
そんな様子に李は頷き答える。
「構いませんよ。すぐに電話しておやりなさい」
「ありがとうッ!李さん」
恭一は声を弾ませると、客間の五島と連絡を取った。
──よかったッ。これでひとつはクリアした。
「あなたのおかげで、さらなる犠牲者が出なくて済みそうです。
ですから、これは私からのお礼です」
「……?」
恭一はことさら声のボリュームを絞った。李には云っている意味が理解出来ない。
「私があなたの世話になって10日間、その間、あなたの部下に──裏切り者─がいると分かりました」
「蘭英美でしょう?」
自信満々だった恭一も李のひと言にはド肝を抜いた。