エンジェル・ダストF-7
「何だとッ!それは本当か」
男達の報告を受け、田中は思わず声を荒げた。
ここは都内某ホテルの一室。通常、陸、海、空の自衛隊各幕僚幹部の会合や、各方面隊の幹部クラスが公務で中央を訪れる場合に利用される場。
その部屋に居るのはバンに乗っていた4人の男と田中だった。
「これに会話を録音しています」
男のひとりはそう云うと、田中にプレイヤーを差し出した。
「おまえが云う通りなら一刻の猶予もならん。松嶋をさっさと始末するしかない」
「しかし、先日の襲撃や情報源を断ち切られた後、ヤツがのこのこ現れますかね?」
思案気味な男に田中は云った。
「来なけりゃ来るように仕向けるまでだ」
田中は獰猛な瞳を男達に向け、新しい指示を与えた。が、最初は大人しく指示に頷いていた男達は、次第に顔を曇らせる。
「大学教授ならまだしも、現職の刑事までとは。事が大やけになると、これまでの隠密性が…」
男達の否定的な意見に、田中は嘲るような目で侮辱する。
「なんだ?怖いのか」
「誰もそんなこと云っちゃいないでしょう」
男の目が田中を見据えた。──呼吸するのと同じように人を殺す人間の目。
その瞳に晒され、田中は思わず身じろぐが、
「忘れるなよ谷崎。習志野の空艇部隊で──事件─を起こしたおまえを、別部隊に引き抜いてやったのはオレだってことを」
わざとらしい恩着せがましい言葉。谷崎と呼ばれた男は奥歯を噛み締める。
「だからあんたの云う通りにオレは──濡れ仕事─ばかりやってるが?」
濡れ仕事──殺害の意。
「とにかく、あんたは指示だけ出してくれりゃ良いんだよ」
一触即発な挑発的な態度。これではどちらが雇主か分からない。
「わ、分かったッ、指示は出したからな」
田中は、谷崎と視線を合わせることなく部屋を出ていった。
他の男達はしばらくドアの方を見つめていたが、
「大丈夫なのか?あそこまで云って…」
そのうちのひとりが谷崎に訊ねた。
「構やしねえ、あんなヤツ。この仕事が済み次第、関係は終るんだからな」
谷崎は、そう云って仲間にも威圧的な視線を送った。