エンジェル・ダストF-5
「よく考えろ。ここまでの情報から、おおよそのフルストーリーは描けるだろう。
だったら、アプローチを変えろ。ストーリーに沿って奴らに仕掛ければいい。いかにも──すべてを知った─みたいにな」
呆気に取られる恭一。
「…確かに、おまえのいう通りだ。オレはあまりにこだわり過ぎ、思考の閉回路を漂っていた」
その表情に生気がみなぎる。目が輝きだした。
「五島。やっぱりおまえは得難いパートナーだよ」
「その言葉、金を払う時も忘れるなよ」
笑顔で語る恭一の言葉を聞き、五島は口の端を上げてニヤリと笑った。
──ここまでは情報戦だった。が、ここからはアクションだ!
「久しぶりのデカイ相手に勘が鈍ってたかな。素晴らしいアクションなのに…」
強い気概を吐く恭一に対し、五島は異議を放った。
「逆にオレはホッとしてるぜ」
「……?」
「おまえにも──ブランク─が有るんだな」
五島はそう云うと、嬉しそうに笑った。
夜。
広い路地には、地域住人も含めて今だに客の足が絶えない。
そこからひとつ外れたエリア。まさに中華街の裏、華僑の人々が生活に行き交う道。
その道端に停車する1台のシボレー。シルバー・グレイのワンボックスが止まっている。
救急車のように遮蔽された後部窓。その色からして業者のクルマのようで目立たない。
すると、ひとりの男がクルマに近づいて来た。ダウンジャケットに腰ばきのジーンズ姿。加えて頭のニット帽やブーツが若さを強調している。
男はスライドドアを開くと車内へと乗り込んだ。
「オイッ、メシを買ってきたぞ」
「テメエ、また犬のエサじゃねえだろうなッ?」
差し出された紙袋から漂う食物の匂いに、車内の居た男のひとりは顔をしかめた。
しかし、それをを買って来た男はそんな不評もどこ吹く風だ。
「だったら自分で行けよッ。オレは何よりハンバーガーが好きなんでな」
「…仕方ねえ野郎だな」
男達は、渋々、食いモノの袋に群がった。
「…中華街にまで来てマク〇ナルドかよ。まったく…」
男達は各々席に腰掛けるとハンバーガーを食しだした。
全員の耳にはヘッドホンを着いており、コードがその奥、後部席に側面に沿って並ぶ機器やパソコンに繋がっている。
4人の男達は食事に気を取られながらも、──漏れ聞こえる音を聞き逃すまい─と神経を尖らせていた。
「キャッチしたッ!」
食事も終わり、皆が再び音だけに集中し始めた時だ。男のひとりが興奮気味に声をあげた。
手元に据えつけてある機器のボリュームを大きく開くと、途端に車内スピーカーに雑音混じりの肉声が広がった。
聞こえてきたのは、男性2人の声だった。