エンジェル・ダストF-11
「まったく連絡が無いのか?」
「ああ。こっちから携帯に入れても応答無しだ」
──奴らに先を越されたのか?
五島の返答に、恭一は焦り始めていた。
「松嶋さん…」
その時、保護された間宮が大きめのマニラ封筒を差し出した。
「実は4日前、私の元にこれが届けられたんです」
「これは?」
「先日亡くなった椛島さんからで、彼が大河内教授と何を行ったかが綴られていました」
恭一は受け取ると封を切って中身を見た。十数ページに渡る資料や私評、それに生前の大河内が語った言葉などが書かれていた。
これを間宮に送りつけた自体、彼は自分の未来を予見していたのだろうか。
──これで外堀は完全に埋まったな。
大河内に佐倉、柴田、椛島。亡くなった魂が断片をひとつの線に変えてくれたのだ。
──材料は揃った。後はオレの力でどこまで潰せるかだ…。
恭一が見せた表情は険しい顔ではない。弾んだ笑み──目だけはメラメラと燃えていた。
その時だ。彼の携帯がメロディを奏でた。素早く取り出すと通話ボタンを押した。
「もしもし、松嶋だが…」
聞こえて来たのは聞いたことの無い男の声だった。
「あんたが待っている宮内を預かった」
「おまえ、佐藤か田中だな?」
確信に満ちた恭一の声。
だが、相手は答えない。
「〇〇の第3ふ頭で待っている。今から1時間後に来い」
「分かった」
「ひとりで来いよ」
それきり電話は切れた。
「五島ッ、ここを頼む。オレは宮内を助けに行く」
「お、おいッ、何処に行くんだよ」
「〇〇ふ頭だ」
その瞬間、五島の舌に苦い味が広がる。そこは夜、街灯も無い場所だ。
「殺されに行くようなもんだぞッ!」
悲痛な叫び。──友人を失いたくない思い。
そんな状況に対し、恭一は笑った。
「それで終われば、オレはそれまでの人間なのさ」
そう言葉を残し、恭一は部屋を飛び出した。宮内を救うために。
…「エンジェル・ダスト」?完…