魔性の仔A-1
刈谷と緋色の髪をした少女が、中尊寺聖美の別宅で暮らすようになって3日が過ぎた。
彼にとって戸惑いながらの共同生活。正直、中尊寺のことは──商品─という目でしか見ていなかった。
そんな彼女が見せる仕事以外の一面。料理や洗濯、掃除という生活に必要なおこないは、意外と思わせるほど人間らしい。
だが、よくよく考えれば当たり前のことだ。他人を遠ざけて生きているのであれば、その様な行いは自らこなすしかない。
イメージと掛け離れた生の中尊寺に触れた刈谷は、共同生活の中で必要な──助け合う心─を持って彼女と接するように変わった。
そんな彼の気持ちが解ったのか、最初は中尊寺を怖がっていた少女も次第に近寄るようになり、笑顔を見せるようになっていった。
2人の気持ちに気づいた中尊寺も、終始笑顔でいることが多くなってきた。
「…なるほどねえ」
昼過ぎ。昼食を交えながら、刈谷は次回作のプロットに目を通す。
当初は、翌日までにはと中尊寺は頑張っていたが、それを見た刈谷が止めたのだ。
慌ててまとめるより、良い作品にする方が重要だと思ってのことだ。
作品の中で主人公である少女は、生科学者が作りあげたクローン体で、クローン胚は学者の亡くなった娘から採ったモノだった。
その事実を知った他の科学者や記者達は、学者だけが持ち得る技術を金や名誉に替えるため、奪おうとして次々と謎の死を遂げる。
そして、クローンで産まれた少女もただでは済まなかった。胚を採った娘は、ガンで亡くなっていたからだ……。
「どうかしら?」
心配顔で覗き込む中尊寺に、刈谷は笑みで答える。
「素晴らしいです。最初に予定していたテーマにも沿ってますし、何より話に深みが増しています」
「ホントに!?良かった」
「でも、これだけの内容となると資料集めだけでも苦労するのでは?」
刈谷が心配する。
作品を創り出す場合、なによりリアリティを求めるために資料集めは不可欠である。
これは現代作に限ったことではない。SFだろうがファンタジーだろうが、作品に伴う資料集めをおろそかにすると、話が薄っぺらになってしまう。
だが、それらはよほどの大御所でも無い限り作家の仕事だ。刈谷はその辺りを憂慮して訊いたのだが、中尊寺は意に介した様子もない。
「大丈夫。最近はコレのおかげで資料集めも楽なのよ」
そう云ってポンポンとパソコンを叩いて微笑んだ。