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こんな恋の始まり
【青春 恋愛小説】

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こんな恋の始まり-1

本当に偶然だった。
たまたま忘れ物を取りにきたあたしは、告白すらできないまま失恋をした。
入学式で一目惚れをした彼は、チョコレートを胸に大事そうに抱えて
「このチョコが1番欲しかったんだ。」
と目の前にいる女の子に言っていた。


2人が仲良く帰るのを隠れて確認して教室に入る。
「忘れ物なんて、なんでこんな日にしたんだろ…。」
溜め息しか出てこない。
カタン…。
ドアの方で物音がする。
振り返ると同じクラスの根岸拓海が立っていた。

「バレンタインに失恋って、なんか青春だよなぁ〜。」
ちょっと間延びした喋り方。
根岸拓海。いつもにこにこ、本心がよく見えない男。
「誰が、誰に失恋したって?根岸君?」
平静を必死で保ちながら笑顔で聞く。
自慢にもならないけど、ポーカーフェイスは得意。
「ん〜?嶋村鈴奈サンが、木島太郎クンに。」
にっこりと、人好きの笑顔で答える。

なんで知ってるのよぉ!心の中で叫ぶ。でも表面は笑顔のまま。
「憶測でモノ言わない方がいいよ?」
言った途端、拓海はクスッと笑う。
「笑顔が固まってるよ?恋愛に関しては嶋村サンもポーカーフェイスできないんだねぇ。」
すべてを見透かされた気がして顔がカッと熱くなる。

「笑いたければ、笑えば?」
これを開き直りと言うんだろうか?普段は人にとても出せないような冷たい声が出た。
「ん〜?笑うつもりはないけど、告白する前の失恋じゃ溜ってるだろうから、俺が話でも聞いてあげよっかなって思っただけだよぉ。」
あたしが冷たく言ったことなんて気にも留めてないような返答。
食えないヤツ…。
「…何の話を聞いてくれるの?」
何を考えてモノを言っているんだかよくわからない。
「木島への想いを聞いてあげる〜。」
にっこり笑いながら可愛く首を傾げて答える。
思わずつられて笑ってしまう。

「じゃあ、お願いしようかな。」
軽い気持ちで言った。
「じゃあ、明日の放課後ここで待ってるね!…そうそう、せっかく仲良くお話するんだから俺のこと拓海って呼んでくれる?根岸君じゃなんか侘びしいし…ね?鈴奈?」
急な申し出にちょっと戸惑ったが彼に従うことにする。
あたしの想いや愚痴を聞いてくれそうだから…。
寂しさや辛さを忘れさせてもらえそうな気がしたから…。
「わかったよ、拓海。…また明日ね。」

そう言うと、拓海は満面の笑みを浮かべ
「明日からよろしくねぇ!」
と言ってぶんぶんと手を振り帰って行った。


正直、冗談で約束をしたと思っていたのに…。
拓海の真意が分からないあたしはHRの後、図書室で1時間時間を潰し、教室に戻ってきたら拓海が机に座り足をブラブラさせながら「遅いよぉ。」と待っていたのに驚いた。
「ごめん、ほんとに待っているとは思わなかった。」
どのくらい待っていたのかは分からないけれど、HRからは1時間が経っている。
「俺、待つの得意だから平気だよぉ。…で、今日はどうだった?
相変わらず木島クンはかっこ良かった?」

他人の色恋沙汰には冷静になれるあたしも、自分のには興奮してしまい「今日の木島君」には熱が入る。
ましてやあたしの本心を知っている拓海には何も隠す必要がない。
自分の素直な気持ちが溢れ出てくる。誰にも本心を話せなかったあたしは、拓海に自分の気持ち全てを打ち明ける。
拓海はうんうん、と相槌を打ちながらあたしの話を聞いてくれた。そして最後に
「本当に、鈴奈は木島クンのコトが好きなんだねぇ。」
と笑顔を見せる。
こんな事が3週間続いた。


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