「アジアの闇を追え!〜後編〜」-6
*注 中国農村女性残酷物語 産経新聞元中国総局 現政治部記者・福島香織
2年前、北京郊外の平谷区の民族村と呼ばれる村落を訪れた。桃の花の名所だが、実は農産物のほとんど実らぬ寒村で、嫁の来手(きて)がない。だからベトナム国境あたりの少数民族の村から嫁を買う。北京なのにミャオ族やナシ族の女たちが暮らすので民族村。
そこで出会ったミャオ族の王美芬さん(当時37歳)は19のとき、8つ年上の実兄に5000元(約8万円)で売られてきた。「好きな人がいたのに、北京で働き口があるとだまされて連れてこられた」。村に着いてだまされたと知り泣いて抵抗すると、兄は棍棒(こんぼう)で折檻(せっかん)した。兄は受け取った金で故郷に家を構え、意中の女性と結婚した。
「10歳年上の夫とは方言の違いで、当初は言葉も通じなかった。結婚2年後、子供が生まれてもう逃げられないとあきらめた」。昔の恋人は、王さんを待ってまだ独身という。語る王さんの涙は止まらず、ぽたぽたとズボンの上にぬれたシミをつくり続けた。
■今も続く女性売買
中国の女に生まれるということはなんとむごいことかと、そのときつくづくと思ったが、やがてこんなのは序の口と知る。
昨年(06年)暮れの事件だ。陝西省延安県の村で結婚仲介者が知的障害の女性(20)を家族から2000元(約3万2000円)で買った。仲介者は別の村の男性に若く健康な嫁として売ったのだが、後で障害がばれて返された。もてあました仲介者は女性を殺害、遺体を「陰婚」仲介組織に転売した。
陰婚とは、未婚男性が亡くなったとき、あの世の伴侶(はんりょ)として墓に未婚女性の遺体を一緒に埋葬する農村の俗習だ。陰婚用の遺体は遺族が売ることも、病院の遺体安置室や墓から横流しされたり、盗まれたりすることもあるらしいが、陝西省や山西省などで炭坑事故による若い男性の死が急増し陰婚用遺体が値上がりしているため、最近では若い女性を狙った連続殺人事件も起きている。
この事件も「陰婚」仲介地下組織の摘発によって明らかになった。地方紙にひっそり載った記事によれば、事件解決後も家族は彼女の遺体を引き取ろうとしなかった。中国の女は生きて売られ、死んでもなお売られ続ける。
追記 2009年5月8日、中国公安部は女性・児童の誘拐と人身売買に関する取り締まりキャンペーンの結果を発表した。中国網が伝えた。
4月9日から5月4日までに児童の人身売買184件、女性の人身売買122件、人身売買犯罪グループ72組を摘発、児童196人、女性214人を救出したという。わずか1カ月足らずのキャンペーンで400人もの被害者が救出されたことになり、誘拐と人身売買が広範に行われていることを裏付ける結果となった。
また公安部によると、誘拐と人身売買犯罪は次のような傾向を見せているという。
(1)グループ化、ネットワーク化、犯罪発生地域広域化の進展、構成員、犯罪手段の多様化
(2)子どもを狙うケース、特に出稼ぎ農民ら他地域出身者の子どもを狙う例の増加
(3)誘拐された児童や女性への物乞い、売春、窃盗、強盗などの犯罪行為の強要例の増加
(4)国際的事件の増加──などが挙げられる。(翻訳・編集/KT)
2009年6月4日、誘拐事件の多発が社会問題化している中国で3人の児童誘拐事件に関与したとして、中国当局が誘拐容疑で逮捕状を取って行方を追っていた中国人の男(39)が他人名義の旅券で日本国内に入国し、東京都内に潜伏していたことが3日、捜査関係者への取材でわかった。警視庁組織犯罪対策2課は他人名義のパスポートで不法入国したなどとして、男について入管難民法違反容疑で逮捕状を取っており、4日に男を逮捕する。中国当局は事件の全容解明には誘拐団メンバーの男の身柄引き受けが不可欠として、日本側に男の強制退去を要請していた。男は日本での司法手続き終了後、中国に移送される見通し。
日中間では犯罪人引き渡し条約が締結されておらず、警察当局によると、中国からの要請を受けて容疑者を移送するのは極めて異例という。