ヴァンジュール〜フライング篇〜-2
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「もしもし、電話変わりましたが……?」
「久しぶりだね。青葉蓮。何年ぶりかな?」
「どういうつもりだ?」
相変わらずの声。聞きたくなかった存在、だが、互いが互いを引き寄せてしまうらしい。いらない運命を背負ったものだ。そう自嘲した。
「なんのつもりって? 一つしかないだろう。オレの目的は――――
「僕への復讐だろう? わざわざ電話してくる意味がないじゃないか」
「なるほど。そりゃそうだ。まあ、いい。今日は青葉蓮。キミにプレゼントがある」
「なに?」
「もうすぐ届くと思うが、キミの大好きな幽霊だよ」
『大好きな』をやけに強調した。昔の出来事がそうさせているのだろう。
「なんのつもりだ?」
「言ったろ? 復讐だよ。これもオレ流の復讐さ」
じゃあな、と『あいつ』はそうそうに電話をきったらしく、受話器からはツーツーとしか聞こえない。目的が読めなかった。考えがわからなかった。
※※※
青葉蓮――僕が電話をきった直後、宅配便が来て、荷物を置いていった。段ボールには『割れ物注意』と書いているものの、異常に軽い。送り主は『青葉新』。楓君は恐怖に陥った目で、僕を見てくる。
「先生、青葉新から荷物が!」
「青葉新からか……。開けてみてくれないか」
青葉新とは『あいつ』がよく使う偽名の一つ。僕を皮肉って付けた偽名らしい。
中を開けると何も入っていなかった。いや、ただ見えないだけか……。なるべくなら使いたくなかったが、しょうがない。
机の上に置いた漆黒の手帳を持ち、その最初のページに五芒星を描いた。五芒星は回転しながら光を放ち、すぐに光を弱めていく。夕闇に包まれた事務所がまた顔を出した。
改めて段ボールの中を見ると、体育座りをしている黒髪の男がいた。頭は脚の間にいれかなり落ち込んでいるように見える。その男が僕達に気付いたらしい。
「キミたちは……?」
「僕は青葉蓮。探偵だ。こっちは助手の影沼楓君。キミは誰だい?」
「僕は弥生、弥生良太郎(やよいりょうたろう)……です」
時折聞き取りにくい声で彼は言った。初対面で緊張しているのか、特異な状況に戸惑っているのか。そのどちらにせよ、彼は元気がなかった。
「良太郎君、だね。とりあえずこっちのソファーに座ってくれないか」
段ボールに座らせておくのは失礼だろう。二人掛けのソファーに促すと、また小さく、はい、と頷き、座った。座ったことを確認すると、質問を切り出した。