月に祈る 1 -1
―泣き声を殺し、静かに涙を流す、彼女の肩は、震えている。
俺は何か言うでもなく、ただ、傍にいるだけで、その背中にもたれかかって、空を見上げていた。
途方もない気持ちとは裏腹に、月は憎たらしいほど、キラキラと輝いて、綺麗だ。
―どうか、あなたが幸せになりますように。
…そう、ただひたすら、月に祈る。
「あのさ、私が、貴方のことをそういう風にみたことないし、これから先も、一生ないから」
そう言う亜紀さんの顔は、こちらから見えないけれど、俺には大体予想はつく。
絶対、満面の笑みだ。
―めちゃくちゃ否定的だな。
ぼんやりとききながら、そう思った。
断るなら、徹底的に。
それが、亜紀さんの、モットーらしい。
言われた相手は、あまりの否定的な言葉に、一つの希望すら見出せはしない。
言葉と笑顔のギャップが、激しすぎるよ。
亜紀さん、口、悪いしなぁ。
ふうっと一息ついてから、
「亜紀さーんっ!これで何人目ですかぁ?!」
そう戯けながら走り寄った。
まぁ、その頃には、振られた相手も、フラフラと立ち去った後で。
「みーろーくー、 あんた、また覗き見??」
「いやいや、いつも偶然偶然?!! 俺が通る所で、亜紀さんがいつも告白されてる、みたいな?」
そう言う俺を、真っ黒な瞳で、ジッと睨んでくる。
亜紀さんは、とても美人さんだ。
とても大きな瞳は、真っ黒な硝子玉の様で、奥に吸い込まれそうになる。
瞳と同じ色の髪の毛は、胸の辺りまで伸びていて、風にサラサラと揺れていて。
言うなれば、現代のかぐや姫みたいなもんだ。
「ったくもー、愛だの恋だの、何が楽しいんだか」
「あは!なんてったってー、花の大学生ですから?」
「大学生だからって、ほいほいと恋する事ないでしょ」
「まぁまぁ!それだけ亜紀さんが魅力的ってことで!」
「なーに、丸め込もうとしてんの、よっ!」
クルッと、亜紀さんは一回転して、俺に得意の回し蹴り!
…かぐや姫は、相当ご機嫌斜めらしい。